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特集 サステナビリティストーリー2

脱炭素の、その先へ。自然の価値を高め、回復軌道に乗せる

デザインシンカーが描き出すネイチャーポジティブの地平

金融事業グループ 事業企画本部 金融サステナブルトランスフォーメーション事業企画部 技師
日立認定デザインシンキング・イニシアティブ(シルバー)

矢島 あゆみ

Introduction

「脱炭素」をめざす世界的な潮流にひもづくようにして、今、世界で大きく要請が高まっているのが、自然環境や生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」です。しかし、取り組みの評価方法をはじめ、その枠組みと市場は発展途上にあります。

そうした社会要請と課題に、DXと環境分野のナレッジを生かして挑むのが、日立システムズの新事業「ネイチャーポジティブ推進支援サービス」です。その第一歩として、森林調査DXと専門的な分析技術を掛け合わせて、水源涵養(※1)機能を評価する実証実験を実施しました。

この事業をリードするのが、金融事業グループの矢島あゆみさんです。日立認定のデザインシンカー(※2)でもある彼女に、事業の歩みと、その先に描く未来について聞きました。

※1
水源涵養:雨水を土壌に蓄え、河川や地下水へゆっくりと供給する森林の機能
※2
デザインシンカー:ユーザーの立場に立って本質的な課題を見つけ出し、解決策を形にしていく「デザイン思考」の実践者。顧客とともに考え、新たな価値を生み出す人材。日立製作所が独自に「デザインシンキング・イニシアティブ」として育成・認定している。

開発の背景と課題

地方創生と森林の取り組みから見えてきた「このままでは環境悪化は止まらない」という危機感

事業立ち上げのきっかけは、約4年前に立ち上げから参加した、宮城県女川町での地方創生プロジェクトでした。地域に寄り添ったサービス開発を進めるなかで見えてきたのが、戦後に植えられた木々が手入れされないまま放置されているという、全国的に見られる課題です。荒廃した森林は、水を蓄える力や土砂災害への耐性が低下し、地域の暮らしにも影響を及ぼしかねません。

この課題へ事業として継続的にあたっていくため、まず着手したのが、森林の整備を通じてCO2吸収量を高め、その価値を取引可能にする「カーボンクレジット」の創出支援です。さらには、その流れのなかで、ドローンやAIを使って森林資源を解析する「森林調査DX」にも取り組んでいきました。

一方、こうした事業に携わるなかで、私たちにある思いが強く芽生えてきました。地球環境の悪化は、このような取り組みだけでは決して止まらない。その速度を本当に緩めるには、脱炭素だけでなく、自然資本そのものを回復させていかなければならない――。折しも世界では、この「ネイチャーポジティブ」への関心が大きく高まり始めたころでした。

そうしたなかで、当社で培ってきたDXの技術と環境分野のナレッジを生かせば、企業のネイチャーポジティブ推進に貢献できるのではないか――。そう考えて着想を得たのが、CO2吸収だけでなく、水源涵養や生物多様性などを含め、自然資本の価値を多面的に高めていく、この事業でした。

ちなみに自然環境といえば、私は愛媛の田舎の出身で、蛍が無数に飛び交う小川で遊んだ子ども時代の記憶があります。この先できるだけ多くの子たちに、そうしたすばらしい体験をしてもらいたいという思いも、事業の原動力になっています。

プロジェクトの苦楽

DXを活用して、科学的根拠に基づいた森林評価を実現。さらに森林の価値向上にも応用

森林のネイチャーポジティブを進めるうえで一つの壁になるのが、測定の難しさです。

実態に即した水源涵養量や炭素蓄積量、生物多様性などの自然資本の状態を把握するのは非常に難しく、例えばその森林にどんな木がどんな成長度合いで生えているかなども含めて詳細に把握する必要があり、人手で行うと大変な労力がかかります。

DXを活用することで、そうした壁の解消を図ったのが、群馬県森林組合連合会との実証実験です。この取り組みでは、当社の森林調査DXに、協創パートナーが持つ生物多様性分析技術をかけ合わせることで、対象となった約50haの森林に対して科学的根拠に基づいた評価・分析を実現できました。

また、水源涵養機能や生物多様性など、森林が持つさまざまな価値を高めていくにあたっては、樹木の成長度合いや土壌の状態を踏まえ、その場所に適した樹種を植える「適地適木」のアプローチが大切になります。そのための精緻な設計も、DXが効果を発揮する領域と考えています。

このネイチャーポジティブ取り組み推進支援を始めるにあたって難しかったのが、「0から1」へと踏み出すことでした。日本国内でも最先端な領域だけに、まずは有識者の方の力を借りながら、私たち自身が学ぶところからスタートしました。理解が深まるにつれて熱量も高まり、社会貢献と事業をしっかり両立させていかなければという責任も感じながら、前に進めていきました。

最先端な領域である分、社内外から理解を得るのも簡単ではありませんでした。そこは「例えばイギリスでは、土地を開発する際、生物多様性を開発前より最低10%向上させることが、2024年から義務化されている。そうした流れが日本にも訪れつつある」といったグローバルの仕組みや潮流を丁寧に説明し、理解を図っていきました。

結果的に群馬県での実証実験は、社内外から「面白い」「先進的」との評価を数多くいただいており、この事業を信じて背中を押してくれた方々には大変感謝しています。

今後の目標

デザイン思考で、柔軟で本質的なアイデアを創出。ネイチャーポジティブが“当たり前”の社会に

この事業は、算定・評価にとどまらず、実際に森林の価値向上に取り組んでネイチャーポジティブを実現するところまで支援することをめざしています。一気通貫で支援できるようになれば、それが私たちの強みになると思っています。また、ネイチャーポジティブにどう取り組むべきか、方針の段階から悩む企業も少なくなく、そこに対するご支援も大切にしたいテーマです。

実は、私は親会社の日立製作所に1年間出向し、デザイン思考の社内資格を取得した「デザインシンカー」でもあります。実際に地方創生のプロジェクトでは、デザイン思考の手法を使って地域の方々とワークショップを行い、地域の課題とあるべき姿を一緒に描いていきました。今後も顧客の課題や施策を形にすることはもちろん、森林にとどまらないさまざまな領域における事業創出に、デザイン思考のスキルを有効に活用していきたいです。

地球環境のことを考えると、ネイチャーポジティブは一刻も早く前に進めていく必要があります。その成果がしっかり目に見えてくる20年後、30年後に、ネイチャーポジティブがごく当たり前の概念になっている世界をめざして、目の前のことを一つずつ形にしていきたいです。