4ページ中3ページ
(マンガの続き)
ナミ:「最初だから私も手伝うわね。一緒に考えてみましょう」
ナミはそう言ってノートパソコンを開き、手際よく損益計算書の数値をエクセルシートに埋め込んでいく。
ナミ:「…さて、できたわ。印刷してあげるから、ちょっと待っててね」
1分もしないうちに、ナミはA4用紙に打ち込まれた表を持って戻ってきた。
科目 | 5年前 | 4年前 | 3年前 | 2年前 | 1年前 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 19,220 | 18,220 | 15,801 | 13,191 | 11,902 |
売上原価 | 7,091 | 6,770 | 5,810 | 4,821 | 4,440 |
売上総利益 | 12,129 | 11,450 | 9,991 | 8,370 | 7,462 |
販売費及び一般管理費 | 10,941 | 10,882 | 10,620 | 10,810 | 10,789 |
(うち人件費) | 5,317 | 5,220 | 5,010 | 5,102 | 5,009 |
営業利益 | 1,188 | 568 | -629 | -2,440 | -3,327 |
営業外収益 | 348 | 330 | 341 | 306 | 312 |
営業外費用 | 630 | 620 | 615 | 613 | 609 |
経常利益 | 906 | 278 | -903 | -2,747 | -3,624 |
あすなは食い入るようにナミが作った表を見つめている。
ナミ:「どうかしら?」
あすな:「3年前から…赤字になってますね」
あすながそう言うと、ナミは「うーん」と言いながら、
ナミ:「…それは社長が言っていた通りのことでしょ?あなたが知りたいのは、何で赤字になったか、よ」
と促した。
あすな:「それは…やっぱり」
あすなは恐る恐る「売上高」と書かれた部分を指差した。
あすな:「売り上げが、落ち込んでいるからじゃないですか?5年前の半分近くまで減ってる…」
ナミ:「そうね。赤字の原因は売り上げの落ち込みにあるみたい…それ以外に、何か気づいたことはある?よーく見て、考えてみて」
あすな:「え?…まだ何かあるんですか?」
ナミ:「ええ、あるわよ。売り上げに応じて、そのほかの項目はどう変わったかしら?」
あすな:「そのほかの項目…例えば、これですか?」
あすなは「売上原価」を指差した。
ナミ:「そうね。お客さんに使うシャンプーやリンス、そのときに必要な水道代、あとは…店頭で販売しているヘアケア用品はこの売上原価に入ってくるわね。こういうものは売上が増えればそれだけ増加する代わりに、売上が減少すれば、同様に減少するものなの…こういうのを『変動費』っていうのよ」
あすな:「変動費…でも、こっちは大きな動きがありませんよね?」
あすなは「販売費及び一般管理費」を指差した。
ナミ:「そう、よく気づいたわね。スタイリストに対する人件費とか、店舗のテナント料とかは、毎月同じようにかかってしまうものなの。売上が多くても、少なくてもね。こういうのは『固定費』っていうのよ」
あすなは「変動費」「固定費」という2つの用語をノートに書き留めて、「そういうことかぁ…」とうなずいた。
ナミ:「あら、何か分かったのかしら?」
あすな:「つまり…売上が減ってしまったとき、変動費はそれに応じて減ったけど、もうひとつの固定費は減らすことができないから、赤字になった…っていうことですよね?」
あすなが答えると、ナミは胸元でパチパチと手を叩いて、
ナミ:「そう、そのとおりよ」
とにっこり笑った。
ナミ:「変動費と固定費は、損益を分析するときにとても大事な考え方なのよ。覚えておいてね」
あすな:「はい、分かりました」
あすなが手ごたえを感じたようにうなずいたのを確認して、ナミはいったん緩んだ空気を引き締めるように、「…それでね」と低いトーンで切り出した。
ナミ:「問題は、なぜ売り上げが減ったか…ということよね」
あすな:「うっ…」
そうなのだ。売り上げが減って、費用をまかなえなくなったという赤字の構造が分かっても、すぐに解決できるわけではない。大事なのは、売上が減った原因をつきとめ、それに対する打ち手を考えることだった。
あすな:「それって…この損益計算書を見ただけじゃ、分からないですよね?」
ナミ:「そうね。もう少し別の情報が必要だけど…私に言ってくれれば揃えるわよ?」
あすな:「えっ?じゃあどんな情報があれば、いいんでしょうか…?」
ナミ:「ふふふ、それは昨日社長に言われたとおりよ。私はあなたが欲しいものを、出すだけよ」
あすな:「そんなこと言われても…」
あすなには、どんな情報があれば売上減少の原因にたどり着けるか、想像がつかない。あすなが行き詰るのを見届けたように、ナミはメガネをくいっと持ち上げながら、
ナミ:「そろそろ、気づいてくれたかしら?情報というのはね、『仮説』がないと役に立たないのよ」
と言った。
あすな:「仮説…?」
ナミ:「そう。あなたが社長から損益計算書を見せてもらえたのは、『3年以上前は黒字だったのに、何らかの事情で赤字に転落した』という仮説があったからなの」
あすな:「なるほど…」
ナミ:「その仮説は、損益計算書を並べてみて実証できた。でもそれでは不十分だったわけ。だからあなたは、次の仮説を考える必要が、あるのよ…考えてみて。美容院の売上が落ちるのには、どんな理由が考えられるかしら?」
あすな:「それは…やっぱりお客さんが減ったからじゃないですか?」
ナミ:「うん、きっとそうね…」
ナミはそう言って、ホワイトボードに簡単な計算式を書いた。
売上=来客数×平均客単価
ナミ:「美容院って、メニューによって値段がはっきり決まっているでしょう?例えばトリートメントや髪染めをするかどうかで値段は変わるんだけど、長い目で見たら、客単価はほとんど同じように推移していくはずよね?だから…」
あすな:「売上が減ったのは、来客数が減ったから、ということですね?」
ナミ:「そうね…でもおかしいわね?」
ナミはいったんあすなに同意した後、すぐに首をかしげた。
ナミ:「美容院は女性にとって必須の存在でしょ?ずーっと行かないと髪の毛は伸びてまとまらなくなるし…普通なら美容院の来客数ってそんなに減らないのよ。この辺りに住んでいる人が急激に減ったわけでもない…それでも来客数が減ったのは、何でなのかしら?」
ナミさんはきっと答えを知っているんだろうな…と思いながら、あすなは「うーん」と考えた。
ナミ:「仮説だから、間違ってもいいのよ?思いついたことを教えてくれる?」
あすな:「えっと、例えば…近くに別の素敵な美容院ができたとしたら、そっちに行っちゃうお客さんも多いんじゃないかなあ」
あすなにも見に覚えがあることだった。新しい美容院は、なぜか自分をおしゃれに生まれ変わらせてくれるような気がするものである。
ナミはうんうん、とうなずいて、また胸元で拍手をしながら
ナミ:「その通りね、よく思いついたわ!おめでとう」
と言ってくれた。
ナミ:「じゃあ、今の仮説を確かめるために、必要な情報は、どんなものかしら?」
あすな:「はい、3年前から今までに、『サロン・ド・ボーテ』の近隣でオープンした美容院があれば、どんな店かを知りたいです」
あすなは今度こそ自信を持って答えた。
ナミ:「…分かってくれた?情報は独りでは全く意味を持たないの。仮説があって初めて、情報に手を差し伸べることができるようになるのよ。じゃあ、資料を持ってくるわね」
あすな:「情報に、手を差し伸べる…」
かっこいいな~。あすなは思わずナミに見とれた。そして、「ナミさんってもしかして、美容院でしっかりヘアメイクしたら超美人なのかも?」と、勝手な「仮説」を立てた。
つづく
あすなはナミから、費用を固定費と変動費に分解することで、赤字の原因の分析に役立てられることを教わりました。さて、次に挙げる3つの人件費のうち、一つだけ「変動費」があります。それはいったいどれでしょうか。
日立システムズは、システムのコンサルティングから構築、導入、運用、そして保守まで、ITライフサイクルの全領域をカバーした真のワンストップサービスを提供します。