
お客さまとの重要な接点であるコンタクトセンター。しかしその裏側では、業界共通のさまざまな課題が潜んでいます。コンタクトセンター事業者としての顔を持つ日立システムズも例外ではなく、生成AIを用いて業務の改善と効率化に取り組みました。
そして今、社内での実践を通して得られた知見を同じ悩みを抱えるお客さまへ展開する準備が整いました。本記事の前半では、自社コンタクトセンターにおける生成AI活用の試行錯誤と成果、そしてお客さまへの支援アプローチを。後半では「応対業務自動化AIサービス」について紹介します。
株式会社日立システムズ
ビジネスイノベーション統括本部
AI活用推進エンジニアリング本部
2023年4月ChatGPTに触発され、勉強会・ブレインストーミング開催、プロトタイプ試作、部門内公開し活用方法を模索。2023年10月当社コンタクトセンター内部での適用検証支援開始。2024年4月に新設された生成AI関連ビジネスの統括本部にてアジャイル開発部隊を率い、主に技術開発・生成AI活用サービス拡充に従事。2025年4月より提供スコープを広げ、生成AIを適用するため手段を含む技術開発、サービス開発を担う担当本部長に就任。
株式会社日立システムズ
コンタクトセンター&BPOサービス事業部
デジタル推進部
2020年4月RPAなどのDXツールを使用したお客さま業務の効率化をおこなう案件に開発者やプロジェクトマネージャーの立場で従事。現在は、音声認識システムやチャットボット、生成AIなどさまざまなDXツールを活用して応対業務の効率化を対応。
多くの方は日立システムズをSIerとして認識していますが、実は国内有数のコンタクトセンター事業者でもあります。まず、その規模感や社会における役割について教えていただけますか?
木村:日立システムズでは、日立グループ各社からさまざまなコンタクトセンター業務を請け負っています。また、日立システムズ独自にお客さまからお任せいただいているセンターも数多くあります。官公庁から民間企業まで、業種を問わず幅広くご依頼をいただいており、現在は全国8拠点、2,000席以上、24時間365日体制でお問い合わせ窓口業務をサポートしています。
今回、AI導入によるコンタクトセンターの変革に取り組まれたとのことですが、背景にはどのような課題があったのでしょうか。多くのコンタクトセンターに共通する業界全体の課題についてもお聞かせください。
木村:現在、コンタクトセンター業界はDXの波と労働人口の減少という二重の圧力に直面しています。具体的には、大きく4点の課題があります。
1点目は、慢性的な人材不足と高い離職率です。オペレーターには、商品やサービスに関する幅広い知識に加えて素早く正確に応対するスキルが求められます。しかし、ストレスがかかりやすい業務のため離職につながりやすいのが現状です。また、専門スキルを持った人材は市場全体で不足しており、教育にかかるコストも増大傾向にあります。
2点目は、業務の属人化と品質のばらつきです。オペレーター業務は経験を積むほど品質が向上していくことが一般的ですが、それは裏を返せば「その人しかできない」という属人化を招きます。データやナレッジを蓄積して対応を標準化することは長年の課題であり、AI活用が期待される領域でもあります。
3点目は、顧客ニーズの複雑化と多種チャネルへの対応です。電話なら声のトーン、メールなら文章作成能力、加えてチャットやSNSへの対応など、チャネルごとに特有のスキルが求められます。さらにチャネル間での履歴共有も必要となるため、業務プロセスがさらに複雑化しています。
4点目は、運用コストの最適化です。人件費が高止まりする中で、通話後の処理業務などの非効率な業務が依然として残っています。
こうした背景から、生成AIの導入が急務となっているのです。
生成AI導入に向けた具体的な開発・導入プロセスについて教えていただけますでしょうか。
木村:一般的な生成AI導入のプロセスにもつながりますが、大きく5つのステップで開発と導入を進めました。
ステップ1:業務の全体像を理解
まずはコンタクトセンター事業のライフサイクル全体(引き合い、受注、運用、クロージングにいたるまで)を一気通貫でヒアリングし、すべての業務を洗い出しました。結果として、業務を9つのカテゴリーに分類し、40以上の業務が生成AI導入の対象となりました。
ステップ2:業務の特性把握
洗い出した各業務について、業務の難易度、業務データの種類(置き場所や記録の有無など)、作業コストという3つの視点からヒアリングを行い、リスト化していきました。
ステップ3:生成AI適用業務の選定(スクリーニング)
次に、現場や開発メンバーに対して生成AIのリテラシー教育を実施し、全員の知識レベルを揃えました。そのうえで、テキストベースで処理できること、作業コスト削減の効果が大きいこと、現場からの要望が強いことを基準にスクリーニングを行いました。その結果、「回答案の生成」「通話要約」「FAQ案の作成」など、5つの業務が候補として挙がりました。
ステップ4:効果検証
すぐにサンプルデータを用意して実証を行い、生成精度の測定と業務ごとの想定削減効果の推計を行いました。この際、生成されたものを人が確認・修正する時間も考慮することで活用の可否を判断しています。
結論としては、活用可能なものとそうでないものがあり「回答案の生成」「通話要約」「FAQ案の作成」に絞られていきました。
ステップ5:本番導入・適用拡大
有効だと実証された業務は既に社内での適用を進めています。特に「通話要約」に関しては、すでに1,000を超える電話番号に適用し成果が上がっています。
プロジェクトの推進には困難もあったかと思います。開発の過程で直面した壁や、それを乗り越えたエピソードがあれば教えてください。
木村:現在も取り組んでいる課題は、点での効率化だけでは現場の業務はスムーズに回らないということです。一つの業務フローの中に生成AIを導入したい作業が複数ある場合、一つずつ生成AIを導入しようとすると、その都度マニュアルを更新して運用ルールを変えなければなりません。これでは現場の負担が大きくなかなか導入が進まないでしょう。
例えば「FAQ案の作成」を例にとると、業務を掘り下げると以下のような作業が抽出できます。
・問い合わせの傾向分析
・傾向に基づいた既存FAQの改廃
・マニュアルの更新の対応
これらの作業一つひとつに生成AIを導入しないと、効率化できたとしてもその効果は半減してしまうのです。そこで私たちは、業務フロー全体がうまく回るために従来のAI技術を活用した問い合わせ傾向レポート機能を追加したり、FAQ案作成に必要な情報が日々蓄積される仕組みを整えたりしました。
このように、通話履歴が自然にFAQとして整備され、ナレッジとして循環していくような継ぎ目のない世界観が理想だと考えます。
生成AIを導入した結果、現場のオペレーターの働き方やお客さまへの対応品質は変わりましたか?
木村:はい、現場からは多くのポジティブな反応が届いています。具体的には、まず文章品質の均一化が挙げられます。オペレーターによって文章作成スキルには個人差がありますが、AIがベースを作成することでその差を軽減できました。要点を押さえた文章が出力されるため、インシデント報告やエスカレーション時のベースとしてすぐに活用できるという声も出ています。
他には、文章が分かりやすく要約されるため会話の全体像を把握しやすく、通話内容の認識漏れがないかをその場で確認できるようになりました。特に難易度が高い案件では、後処理時間の短縮にも大きく貢献しています。
なにより、心理的な安心感や精神的な負担軽減にもつながっています。
今回のノウハウを今後はお客さまに提供されますが、他社にはない強みを教えてください。
木村:私たちはコンタクトセンター事業者でもあるため、現場の業務内容や課題を熟知しているメンバーが多数います。それに加えて、SIerとしての知見も持ち合わせています。だからこそ、単にツールを導入するだけでなく業務分析から入り、構築、連携、窓口業務やシステム運用にいたるまで、コンタクトセンターのライフサイクル全般への生成AI適用をご支援できます。
また、提供形態も柔軟です。例えば、「回答案の生成」や「通話の要約・事例登録」といった機能をお客さまのニーズに合わせて必要な部分だけシステムとして提供することも可能です。
業務を熟知しているからこそできる支援力と、それをシステム化して業務に溶け込ませる実装力。この複合的な価値をご提供できるのが私たちの強みだと自負しています。
導入の進め方や、そのあとのサポート体制について教えてください。
木村:生成AIをご提供する際は、多くの場合まずその導入効果を検証するところからスタートします。その結果を評価いただいたうえで、より適切な活用方法を模索していきます。また、適用範囲は段階的に広げていくことになりますので、お客さまのご要望に合わせて継続的な支援を行なってまいります。
最後に、今後の展望についてお聞かせください。
木村:コンタクトセンター業務の効率化やその全体のAI化をさらに推進していくため、各機能をブラッシュアップしていきます。そして、そこで培ったシステムやノウハウをサービスとしてお客さまに提供していく予定です。
究極的には、業務のすべてをAI化していきたいという思いがあります。だからといって人が不要になるわけではありません。AIが普及すればするほど、AIを使いこなせるマネジメント能力が重要になってきます。そうした新しい業務のあり方を先んじて整理し、世の中に提示していきたいと考えています。
AIが業務を支えることで、問い合わせる方も受け付ける方も誰もが幸せになれる、新しい時代のコンタクトセンターを作っていきたいです。
最後に、DX推進担当者やコンタクトセンター業務で課題を抱えている方々に向け、メッセージをお願いいたします。
木村:これからは、AIと人間が協業する新しい時代の組織へと変わっていくでしょう。特にコンタクトセンターは業務を劇的に変える大きな可能性を有しています。私たちには、自ら実践してきたからこその経験とソリューションがあります。これから導入を検討されている方や導入したものの効果が上がらず悩んでいる方はぜひお声がけください。
次に「応対業務自動化AIサービス」についてお伺いします。コンタクトセンターの効率化が進んだ際は、次のステップとしてどのようなことが考えられるでしょうか。
鈴木:蓄積されたナレッジを活用して、問い合わせ対応のさらなる自動化につなげていくこともできます。日立システムズが提供している「応対業務自動化AIサービス」では、音声認識システムやチャットボット、生成AI、RPAなどのツールをお客さまのニーズに合わせて組み合わせることで、問い合わせ対応の自動化を実現します。
「応対業務自動化AIサービス」の強みを教えてください。
鈴木:拡張性の高さが強みです。単に問い合わせ業務の一部を自動化するだけでなく、業務全体を自動化することができるのです。例えば、電話で申請を受け付けるケースを想像してください。AIが一次受付をして内容は記録しますが、そのあとのシステムへの登録やアカウント作成といった実作業はオペレーターが手動で行うケースが少なくありません。しかし、本サービスでは生成AIをバックエンドのシステムと連携することで、申請内容に沿ったアカウント作成まで自動で完了させることができるのです。
本サービスについて、今後の機能追加やブラッシュアップの予定はありますでしょうか?
鈴木:お客さまからご要望の多いニーズに合わせて機能の組み合わせを標準化し、よりスピード感を持って提供できる体制を整えていきたいと考えています。当社にはコンタクトセンター運営で培った膨大なナレッジがあります。例えば、企業が違っても「よくある問い合わせ」や「業務フロー」には共通点が多いです。そうした汎用的なナレッジをあらかじめ組み込んだサービスなども提供していきたいと考えています。
すでに「応対業務自動化AIサービス」の中には、「音声自動応答モデル」の機能があります。これは、音声での問い合わせに対してAIが既存のFAQを参照して自動回答するものですが、1週間程度でのスピード導入が可能です。
このように、ニーズの高い業務の標準化を進め、より多くのお客さまに素早く価値を届けていきたいと考えています。
本サービスの導入によって、コンタクトセンターのあり方や現場の働き方はどのように変わっていくとお考えですか?
鈴木:よくある問い合わせや申請処理といった単純な業務は自動化が進み、その分人間は個別の事情に寄り添ったり、温かみのあるコミュニケーションが必要だったりする業務にリソースを注ぐことができるでしょう。そうして働く人とお客さま双方の満足度を高めていけると考えています。
最後に、DX推進担当者やコンタクトセンター業務で課題を抱えている人に向け、メッセージをお願いいたします。
鈴木:DX推進や生成AIの活用は、具体的にどの業務にどう適用すればいいのかという判断が難しいものです。だからこそ、まずは現場の課題を私たちにご相談ください。一緒になって頭を悩ませ考え抜きながら、課題を整理し、効率化や自動化の方向性をともに検討しながら、お客さまのDX推進を支援していきたいです。
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