全庁で利用するICT基盤のネットワーク構成を「β´モデル」へと移行
クラウドの積極活用で、職員の生産性向上と区民サービスの向上をめざす
渋谷区様は2023年1月より、「ICT基盤2.0」と名付けた新しいICT基盤の運用を開始しました。このICT基盤のネットワーク構成は、自治体情報セキュリティ対策の「β´(ベータダッシュ)モデル」にあたるもので、インターネットやクラウドをはじめとするデジタル技術の積極的な活用により、職員の生産性および区民サービスのさらなる向上をめざすものです。
日立システムズは、ICT基盤1.0に引き続き、ICT基盤2.0の構築・運用ベンダーとして、渋谷区様とともに約1年3カ月におよぶプロジェクトを推進しました。今後、ICT基盤のさらなる充実・改善を図ることで、渋谷区様の自治体DXの推進に貢献してまいります。
渋谷区様は2022年10月1日に渋谷区制施行90周年を迎えました。「ちがいを ちからに 変える街。」を合言葉に、成熟した国際都市へと進化を続けています。
渋谷区様は去る2019年1月、本庁舎の移転にあわせてICT基盤を全面刷新しました。職員全員に携帯性の高いノートPCを支給し、庁舎全域で無線LANの利用を可能にしたほか、Microsoft365を導入し、音声/ビデオ会議、Officeドキュメントの共同編集、BYOD端末によるEメールや内線電話の利用を可能にしました。このICT基盤1.0は、職員自身が希望するワークスタイルを自由に選べるようテレワークにも対応しており、コロナ禍においてはその特長が十分に発揮されました。他の自治体がテレワークへの移行に苦労する中で、渋谷区様はノートPCとMicrosoft 365、モバイルルーターを活用しいち早く在宅勤務への切り替えを行い、緊急事態宣言下でも通常通り業務を継続することができました。
一方で、ICT基盤1.0には「インターネット利用の利便性向上」という課題もありました。ICT基盤1.0の構想当時、総務省は自治体情報セキュリティ対策におけるβモデル・β´モデルを提唱していなかったため、いわゆる3層対策にはテレワークに適したネットワークセグメントが存在しませんでした。そこで渋谷区様は、ICT基盤1.0において独自に「コア系」という4層目のセグメントを設け、この配下に職員のノートPCを配置し、他のネットワークにはVDI環境でアクセスすることでセキュアに業務が可能な環境を構築しました。これによりセキュリティを担保しながらテレワークが行えるICT環境が実現しましたが、インターネットは仮想ブラウザでの利用のため、インターネット閲覧用仮想ブラウザの起動が遅い、ネットワークをまたぐ情報のコピー&ペーストができず情報活用が困難、などの問題が発生しました。
職員から改善を望む声が多数寄せられていたことから、渋谷区様はネットワーク構成の見直しを含む、ICT基盤1.0の改修検討を始めました。
その後、総務省がβ´モデルを提唱したことを受け、渋谷区様は2021年9月に「ICT基盤2.0整備プロジェクト」を立ち上げました。
プロジェクトのテーマには「ICT基盤の利便性・生産性の一層の向上」が掲げられ、主に下記5つの施策が実施されました。
1 : β´モデルへの移行によるインターネット利用の利便性向上
2 : BYOD端末による外線電話の受発信の実現
3 : 多様化・複雑化するセキュリティリスクへの対応
4 : ノートPCの性能強化による職員の生産性向上
5 : ICT基盤の構築・運用にかかるトータルコスト20%削減
構築・運用を担当するベンダーには、前回のICT基盤1.0の構築・運用における高い技術力、サポート対応を評価し、引き続き日立システムズをパートナーとして選定しました。
プロジェクトにおいて渋谷区様が特に注力したのは、セキュリティ対策環境の構築です。渋谷区様と日立システムズは要件定義や基本設計の終了後もさまざまなセキュリティ脅威や事案の研究、先進のセキュリティ対策ツールの情報収集を行い、ICT基盤の利便性とセキュリティの適切なバランスを追求しました。こうして約1年3カ月の工期を経て、ICT基盤2.0は2023年1月から稼働を開始しました。ネットワーク構成のβ´モデルへの移行を含む5つの施策目標をすべて達成し、プロジェクトのテーマである「ICT基盤の利便性・生産性の一層の向上」を実現することができました。
渋谷区様は現在、生成AIの業務利用やガバメントクラウドへの対応に向けてICT基盤のさらなる改善に着手しています。「ICTにかける費用はコストではなく投資」の考え方に基づき、渋谷区様はこれからもDXへの積極的な投資を行い、区民サービスの向上、職員の生産性向上をめざしていきます。
渋谷区様のICT基盤2.0は、自治体DXを実現するための基盤として、「ニューノーマルへの対応」「クラウドファースト」「データを用いた行政運営」「ユーザー体験の最適化」の4つの方針を柱に約1年3カ月かけて整備が行われました。日立システムズは、ネットワーク構成の設計・構築、Microsoft 365およびMicrosoft Azureの設定、関連するハードウェア・ソフトウェアの手配、ユーザー向け教育を担当しました。
β´モデルへの移行により、クラウドサービスの利用が活発になりました。
「渋谷マイポータル」はバックエンドでクラウドベースのプラットフォームを利用しており、区民向けデジタルサービスの充実に貢献しています。
Microsoft Teamsを利用し、業務用PC端末だけでなくBYOD端末での外線電話の受発信を可能にしました。
外出時やテレワーク時にも渋谷区様の電話番号で外線電話が利用できるようになりました。
渋谷区様のICT基盤は、日立システムズの常駐技術者が運用業務を担当しています。
使用する管理ツールや運用体制の見直しを行うことで、ICT基盤1.0と比べて構築・運用にかかるコストを20%削減しました。
ICT基盤2.0では、Microsoft Azure上に庁内ネットワークと同等のネットワーク構成を配備しました。
これにより、IaaSだけでなく、PaaSなどのサービスについても活用を促進し、さまざまなサービスの拡張性確保をめざします。
── ICT基盤1.0およびICT基盤2.0の構築により得られた成果を教えてください。
ICT基盤1.0では、職員全員に持ち運び可能なノートPCを配備し、庁内全域に無線LANを整備しました。庁内のどこでも仕事ができるようになり、また内部業務はテレワークでも可能となり、働き方の自由度はかなり上がりました。一番大きく変わったのは会議です。以前は参加者の時間調整、会議場所の確保に苦労しましたが、Microsoft 365のビデオ会議を使えば自席ですぐに会議ができるようになりました。コミュニケーションの質と量が向上し、また、その幅も広がったと実感しています。
ICT基盤1.0ではテレワークに対応できるICT環境を構築したので、コロナが猛威を振るい始めた混乱期においてもすぐに在宅勤務に切り替えていつもと変わらぬ仕事ができました。他の自治体はコロナ禍のテレワーク対応にとても苦労したと聞いていますので、早めにICT基盤を整備しておいて良かったと思います。
ICT基盤1.0をさらに発展させ、さらなる利便性・生産性の向上を図ったのがICT基盤2.0です。まず、ネットワーク構成をβ´モデルに移行したことでインターネットやクラウドサービスが格段に利用しやすくなりました。現在Salesforce、カオナビ、ServiceNowなどのサービスを業務に使用しています。今後も職員から要望があれば新しいクラウドサービスの利用に応えていきたいと思います。
ICT基盤2.0ではMicrosoft Teamsを使い、BYOD端末で外線電話の受発信ができるようにしました。これは出張や外出の多い職員に特に喜ばれています。ノートPCもSIM搭載可能な端末に刷新したので、より柔軟にテレワークが行えるようになっています。
──渋谷区様がDXの推進において大事にしていることを教えてください。
いろいろありますが一つ挙げるとすれば、ICTにかける費用を「コスト」ではなく「投資」と考えることを大事にしています。例えば、ICTをコストと考えるとPC端末は「できるだけ安いものを選ぶ」ことが正解になります。
一方で、ICTを投資と考えると、PCにかけた費用に対するリターンが重要になります。
PC端末のスペックを強化することで業務処理スピードがどれだけ向上するか、職員の労務費がいくら削減できるのか、といった点が判断基準となり、「費用を上回るリターンが得られるPCを選ぶ」ことが正解になります。
DXについても同じで、今回のようなICT基盤を整備することで、職員がより付加価値の高い業務に専念でき、それが結果として区民サービスの向上というリターンにつながっていきます。そのような期待があるからこそ、自信を持ってDXに取り組むことができています。ICTは正しく投資すれば確実なリターンが望める分野ですので、渋谷区はこれからも積極的な投資を行っていきたいと考えています。
── 最後に日立システムズへのご評価をお願いします。
前回に引き続き、今回のICT基盤2.0整備プロジェクトでも非常によくやっていただいたと評価しています。β´モデルへの移行は、利便性と同時にセキュリティリスクも上がる取り組みなので、利便性とセキュリティをどう担保するかについては、プロジェクトの最初から最後まで延々と議論を積み重ねてきました。日立システムズが私たちのリクエストに粘り強く付き合ってくれたからこそ、予定通り新しいICT基盤をリリースすることができたと考えています。
ICT基盤の構築・運用にかかるトータルコスト20%削減という目標についても、サーバー関連の管理ツールの見直しや運用業務の見直しなど、たくさんのご提案をいただいたおかげでランニングコストをかなり下げることができました。
仕事柄たくさんのベンダーさんとお付き合いがありますが、日立システムズは高い技術力に加えて、プロジェクトに向き合う姿勢など、どの点をとってもピカイチのベンダーさんだと思います。自分たちの会社よりも、渋谷区を第一に考えていただいていることが伝わる、素晴らしいパートナーだと思います。これからも私たちの良きパートナーとして、渋谷区のDXを支えていただきたいと思います。
渋谷区
信頼性の高いICT基盤の提供を通じて、渋谷区様の先進的な取り組みを支えていきます
今回のICT基盤2.0整備プロジェクトのテーマは、「ICT基盤の利便性・生産性の一層の向上」というものでした。しかし、ICT基盤において利便性とセキュリティはトレードオフの関係にあります。利便性を保ちながら、いかにセキュリティを強化するかという点について、渋谷区様と深い議論を重ねながらICT基盤の構築を進めていったことは、日立システムズとして非常に良い経験になりました。
今回のプロジェクトでは、ICT基盤1.0の設計・構築・運用を担当したベンダーの視点から、運用業務におけるさまざまな課題への解決策も提案させていただきました。渋谷区様の先進的な取り組みを支える、高い信頼性を持ったICT基盤となるよう、これからもさまざまな改善提案をさせていただきたいと思います。
今回の取材にご協力いただいたお客さま
ご協力ありがとうございました。
*本内容は2024年1月取材時点の情報です。
本事例に記載の情報は初掲載時のものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があることをご了承ください。
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