
住民や従業員の健康維持は、自治体や企業にとってますます重要なテーマとなっています。その鍵を握るのが健康データの活用ですが、多くの現場では「データはあるが活用しきれない」「専門知識不足で分析が進まない」といった壁に直面しています。特に自治体においては、こうした課題への対応が急務となっています。
この課題に対し、日立システムズは生成AIを用いた新たな解決策を提案します。本記事では、ヘルスケア分野における生成AI活用のポイントとともに、分析から課題抽出、具体的な施策の提案までを自動化する「健康データ分析向けアシスタントAI」について紹介します。
株式会社 日立システムズ
産業・流通事業グループ 産業・流通情報サービス第一事業部
ライフサイエンス&SAPインフラサービス本部
本部長
メンタルヘルス対策をはじめとする幅広い健康支援サービスを提供。自治体や企業のウェルビーイングを包括的に支える健康ソリューションサービスの取りまとめを担当。
株式会社 日立システムズ
産業・流通事業グループ産業・流通情報サービス第一事業部
ライフサイエンス&SAPインフラサービス本部 健康支援サービス部 第三グループ
主任技師
現在は健康支援サービスのソリューション開発と拡販を担当。自治体・企業向けに、生成AIを活用した健康データ分析支援を推進中。
健康意識は日々高まっていますが、自治体では健康診断結果などのデータを活用する動きが活発になっています。これにはどのような背景があるのでしょうか?
小林:少子高齢化と、それに伴う医療費の増大が最大の背景です。高齢者の割合が増え、現役世代がその医療費を支える構造の中で、国全体として「いかに医療費を下げていくか」が喫緊の課題となっています。では、どこに医療費を下げる余地があるかと考えた時、対策の効果が見込めるのが、糖尿病などに代表される「生活習慣病」の領域です。がんなどとは異なり、生活習慣病は日頃のケアで予防や重症化防止が可能なケースが多いからです。
そのため、健康診断のデータを分析し、適切な予防策を打とうとする動きが活発になっているのです。
具体的に、自治体ではどのような場面でデータ活用が求められているのでしょう?
小林:自治体にとって大きな動機となっているのが、国からの予算獲得です。未病対策や健康増進に力を入れる自治体には補助金が出る仕組みがあるため、その確保に向けて計画を進めています。
具体的には、健康保険の受診率や保健指導の実施率といったKPI(目標数値)が設定されています。これらを達成するために、「国保データベース(KDB)」などのデータを活用し、地域の健康課題を分析して、住民への指導などを行うことが求められているのです。
企業においてはいかがでしょうか。
大島:企業でも、「健康経営」を将来への投資と捉え、データ活用に関心のあるケースが見られます。その理由は大きく二つあります。一つは「生産性の向上」です。従業員への健康投資を行って幸福度(ウェルビーイング)や健康度を高めれば、結果として組織全体の生産性の向上につながる可能性があります。もう一つは「ブランディング」です。「健康経営優良法人(ホワイト500)」などの認定を取得することは、企業価値の向上や採用力の強化に直結するでしょう。
現在、自治体の現場ではデータ活用に関してどのような課題があるのでしょうか。生成AIの活用もなかなか進まないという声も聞かれます。
大島:大きな背景として、「データヘルス計画」のフェーズが変わったことが挙げられます。現在は、第3期に入っているのですが、第2期まではプロセスが評価されていました。しかし、第3期からは成果が求められるようになっています。
計画には23個の共通評価指標があるのですが、期限までにデータで成果を示さなければいけません。しかし、実際にはまだ結果が出ておらず、焦りを感じている自治体も少なくありません。成果を出すためには、23個の中から効果が高いものに絞ってアプローチする必要がありますが、そこで不可欠になるのが「分析」です。しかし、それを専門知識のない職員だけで行うのは、現実には非常にハードルが高いのです。
例えば、「塩分摂取量が多く、高血圧の方が多い」といった地域特性や県民性は自治体ごとに異なります。そのため、一律の施策ではなく、自分たちの地域のデータをきちんと分析し、「うちはこの傾向が強いから、ここを重点的に頑張ろう」といった独自のアプローチを導き出す必要があります。
小林:また、人手不足という根本的な問題もあります。膨大なデータを手作業で集計するにはどうしても限界がありますし、AI導入を検討しても、今度は初期コストや職員のスキル不足が障壁となってしまいます。その結果、成果につながる活用までいたっていないのが現状です。
既に、BIツールなどを使って健康データの分析はできている自治体もあるかと思います。しかしそれでも具体的な成果につながっていないケースがあると伺いました。その原因は何でしょうか。
小林:BIツールなどの既存ソリューションは、あくまで「集計」が得意なツールだからです。データを集めてグラフ化し、ダッシュボードで見せることはできます。しかし、現場の担当者が一番知りたいのは「そのグラフを見て、結局どうすればいいのか?」という具体的なアクションです。従来のツールでは、その判断を人に委ねているため、専門性や時間が足りず、可視化はできても成果につながらないという課題がありました。
これまでの課題を踏まえて、自治体が生成AIなどを活用して、本当に「使える」健康データ分析を行うにはどうすればよいのでしょうか?
小林:「データを貯める・見せる」という段階から、「AIに分析してもらい、具体的な施策を提案してもらう」という段階へシフトする必要があります。
それを可能にしたのが、生成AI技術の進化です。生成AIを活用することで、担当者の専門性不足や業務負担といった課題を解消し、成果につなげることができるのです。
これまで教えていただいた課題等を解決するのが、今回リリースした「健康データ分析向けアシスタントAI」とのことですが、このサービスの概要を教えてください。
大島:一言で言えば、自治体の健康診断データなどを生成AIが分析し、課題の抽出から具体的な施策の提案までを自動化できるサービスです。
本サービスは、神奈川県100万件の「国保データベース(KDB)」を活用し、生成AI分析基盤の構築を実現しました。データの可視化・分析を効率的に行う「ダッシュボード」と、対話型で分析をサポートする「AIエージェント」を備えており、さまざまな分析を自由に行うことができます。そうして業務負担を軽減し、地域ごとの細かな健康課題にも柔軟に対応することが可能になります。
健康データは非常にセンシティブな情報ですが、セキュリティ面についてはいかがでしょうか。
大島:私たちは以前から健康支援サービスを提供しており、厚生労働省などが定める「3省2ガイドライン」に準拠した運用ノウハウを蓄積してきました。また、既に神奈川県での実績もあり、セキュリティ面は私たちの強みです。
「健康データ分析向けアシスタントAI」の具体的な使用例を教えてください。
小林:まず、ダッシュボード部分では、「フィルタ」をかけてデータを絞り込み、そのデータを自動要約することが可能です。例えば過去5年分の集計データがあれば、人間が表を読み解かなくても、AIが傾向を考察してテキストで表示してくれます。
また、日本語で指示を出すことで、分析はもちろん、さまざまな文章を作成してくれます。「個人番号〇〇の方の体重と腹囲の推移をグラフで示してください」と指示すれば、対象者のデータを抽出してグラフ化するだけでなく、健康上の考察まで自動で生成します。
また、「具体的な特定保健指導を実施してください」と指示すれば、初回面接から目標設定、フォローアップにいたるまでの詳細な計画案を出してくれます。もちろん人の目による最終確認は必要ですが、ゼロから計画を立てる手間が省け、工数を大幅に削減できます。
さらに、「具体的な特定保健指導の内容をメール文章で提示してください」と指示すれば、その人の健診データを引用したメール文面案も作成可能です。
従来のBIツールでは専門スキルが必要な上、やりたい分析があるたびに要件をまとめてベンダーに依頼しなければならず、時間も手間もかかっていました。しかし、「健康データ分析向けアシスタントAI」なら、プロンプト(指示文)を入力するだけです。その場ですぐに分析結果や考察を得ることができます。
大島:その自由さによって、新たな課題の発見にもつながります。人間が考えると、既存の枠組みの中で分析してしまいがちです。しかし、生成AIなら「この切り口で見たらどうなる?」といった試行錯誤が簡単にできるため、人間では思いつかなかったような多角的な軸でデータを見ることができます。その結果、これまで見落としていた健康課題に気づけるようになるのです。
自治体と一言で言っても、人口規模や抱えている健康課題、保健指導の方針はさまざまだと思います。このサービスは、そうした自治体ごとの違いにも柔軟に対応できるのでしょうか?
小林:はい、柔軟に対応可能です。地域固有のデータや特性に基づいてAIが分析・提案を行えるので、適切なアウトプットを自動生成できる設計になっています。
生成AIに関する知識がない担当者でも、スムーズに使いこなせるのでしょうか?
小林:もちろんです。専門知識がなくても直感的に操作できる設計にこだわっています。導入時には、「どの業務を効率化したいか」という課題をヒアリングし、それが解決できるようにチューニングしてから提供します。また、「こういう聞き方をするといい答えが返ってきますよ」といったプロンプトのナレッジもあわせて提供しますので、AIに詳しくない方でもスムーズに使えるよう伴走体制を整えています。
導入を検討する場合、どのようなフローで進むのでしょうか?
小林:まずは、お客さまがお持ちの実際のデータを見せていただくところから始まります。実際のデータを分析することで、顕在化している課題はもちろん、潜在的な課題も見えてきます。そうして現状を可視化した上で、解決策を一緒に描くところから支援させていただきます。
私たちはヘルスケアに限らず、公共、金融、産業など幅広い分野での実績があり、多様なソリューションを持っています。単に「AIツールを導入して終わり」ではなく、私たちの持つあらゆるサービスを駆使して、お客さまの課題を解決していきたいと考えています。このような「伴走力」も私たちの強みです。
「健康データ分析向けアシスタントAI」の導入によって、その自治体に住んでいる住民や、企業の従業員の未来はどのように変わっていくのでしょうか。
小林:未病対策が進み、誰もが長く健康に暮らせる社会に近づくこと。そして、それによって社会全体の医療費の抑制に貢献できることが大きいと考えています。
定年が延び、長く働くことが当たり前になる中で、「健康でいること」の重要性は増すばかりです。 本サービスが普及し、住民ひとりひとりに寄り添った保健指導が実現すれば、ウェルビーイングな未来に近づくでしょう。また、現場を支える職員の方々の業務負荷を軽減することで、より質の高い健康支援ができるようになる点も重要です。
大島:私はさらに視野を広げて、住民の方々だけでなく、自治体職員なども含めた「地域に関わる全員」が健康になってほしいと思っています。データ活用を通じて、地域全体がウェルビーイングな状態になる。そんな未来を、このサービスを通じてめざしていきたいですね。
「健康データ分析向けアシスタントAI」の今後の展望についてお聞かせください。
大島:生成AIは日々進化しており、今後半年から1年でさらに「自律型」になっていくことが予想されます。現在は人間が細かい指示を出していますが、将来的には、AIが自らデータを検知し、職員が出勤した時にはすでに分析結果が提示されている、そんな世界がやってくるのも、そう遠い話ではないと思います。
また、私たちは健康支援だけでなく、介護・福祉事業者向けのサービスも展開しています。これらは密接につながっているため、今後連携を深めていきたいです。それ以外にも、企業や医療機関など、より幅広い分野での活用も検討していきます。
企業向けには、今後どのような価値を提供していくのでしょうか?
大島:データに基づいた「健康経営」の推進を支援していきます。具体的には、従業員の健康診断結果やストレスチェック、勤怠情報といった社内データを統合的に分析します。これにより、部署ごとの健康課題を抽出したり、個人のメンタル不調や離職リスクの予兆を検知したりすることが可能になります。将来的には、多くの企業の課題解決に役立つサービスにしていきたいと考えています。
最後に、健康データの活用に課題を感じている全国の担当者さまへのメッセージをお願いします。
大島:「まずはぜひ実際に使ってみてください」ということに尽きます。すでに他の自治体での導入実績もありますので、安心してお任せいただければと思います。ソリューションはあくまで課題解決の手段です。まずは実際に活用してみて、自分たちの現場で本当に役立つかどうかを判断していただきたいです。その体験が、適切な健康データ活用につながるはずです。
小林:現在のAI技術の進化は凄まじいですが、現場の皆さまにそうした最新情報が届いているかというと、必ずしもそうではありません。「まさかAIがそこまでやってくれるとは思っていない」「どうせ無理だろう」と思っている方が多い印象です。だからこそ、最新のAIを活用すれば、専門知識がなくてもここまでできるということを、まずは知っていただきたいのです。
生成AIの活用によって業務負荷が軽減されれば、その分、職員の皆さまは本来向き合うべき「人々の健康」のための業務に注力できるようになります。地域の課題を一緒に解決するため伴走させていただきますので、ぜひ一度お声がけください。
※記載の会社名、製品名はそれぞれの会社の商標または登録商標です。