
2025年7月、日本のAI研究を牽引する「人工知能学会」の理事に、日立システムズの板井 光輝が就任しました。本記事では、データサイエンティストとして、長年にわたり講演やセミナーなど多岐にわたる活動を続けてきた板井に、理事就任に至るまでの軌跡と理事としてめざす今後の展望について深掘りします。さらに、AI分野への一歩を踏み出す学生に向け、これからの社会で本当に活躍できるAI人財に必要な資質や、日立システムズでの具体的なキャリアパスについても語ってもらいました。
このインタビューを通じて、AI社会の未来を担う次世代への熱いメッセージをお届けします。
株式会社 日立システムズ
ビジネスイノベーション統括本部
AI活用ビジネス推進本部 シニア・データサイエンス・エキスパート
大阪大学 招へい教授
立命館大学数理科学科を首席で卒業、大阪大学大学院で応用解析学を専攻したのち、2013年日立システムズに入社。
SEとして社内ITシステムの開発に従事後、2016年よりデータ分析専門チームに参加。
2019年にはデータサイエンティスト技術リーダーとして課長相当職に抜擢。2022年に部長相当職、2024年より現職。現在は、AI・データサイエンス技術活用における総合的な指導・助言を行うアドバイザーであるとともに、社内外に実践的スキルを伝えるデータサイエンス教育者としても活躍中。
これまでの経歴を教えて下さい。
2013年に日立システムズへ入社後IT本部の配属となり、2016年からはデータサイエンティストとしてのキャリアがスタートします。そこで実績を積み重ね、2022年には「データサイエンス推進センター」の部長相当職に就任。そして2024年からはシニア・データサイエンス・エキスパートとして、より専門的な役割を担うことになります。現在は、データ利活用ビジネスや技術研究開発における総合的な助言や指導、さらには社内の人財育成も手掛けるアドバイザーとして活動しています。
現在、社外でも活躍されていますがどのような活動をされているのでしょうか?
大阪大学では、招へい教授(数理・データ科学教育研究センター)として、データサイエンスやAI活用に関する教育アドバイザーの立場で、実践的なデータサイエンス教材の提供、講演および演習講義を行なっています。
また、神戸大学では2021年度から、データサイエンス教育のアドバイザー的立ち位置で、より高いレベルでのデータサイエンス・統計教育の普及拡大をめざし「中高生データサイエンスコンテスト」を立ち上げるなど、育成にも力を入れています。
そもそも、データサイエンスの道を志されたきっかけは何だったのでしょうか?
堅く聞こえるかもしれませんが、学生時代から統計学的なデータ分析を日々の生活に取り入れることが習慣になっていました。データに基づく意思決定をすることで、迷いや悩むことなく、着実に前に進めることに気づいたのです。
歴史をひもとけば、過去の偉人たちが犯した失敗から私たちは多くの教訓を得ることができますよね。過去に起きた出来事を分析し、原因と結果、そしてそれらを説明する特徴量を数学的に導き出す。この手法を応用すれば、日々直面する課題にも当てはめることができ、想定する結果を得られるようになると考えていました。そのような行動を繰り返すうちに、自然とデータサイエンスの道を意識するようになったのだと思います。
また、あらゆる技術や分野の基盤となり得るものは数学だと考え、それをしっかりと勉強しようと決意しました。そこで私は大学院へ進み、論理的な思考(ロジカルシンキング)、水平的な思考(ラテラルシンキング)、批判的な思考(クリティカルシンキング)という、3つの思考を高度に訓練しました。そうして、日立システムズに入社しました。
これまでの活動において、学生向けにどのようなことをされているのか教えて下さい
さまざまなセミナーや講座で講師やアドバイザーを務めています。例えば、大阪大学が主催する、学部生から大学院生を対象としたAI・データサイエンスの実践的な教育プログラムである「西日本アライアンス大学間共同PBL」では、講義アドバイザーを務めています。
また、「全国合同インタラクティブマッチング」は、学生と企業が交流しインターンシップの調整や意見交換を行う場として開催されています。学生は自身の学びが企業でどう生かせるかを知ることができ、企業は学生の現状を把握する貴重な機会となっており、そこで学生向けに自身のスキルとやりたいことを踏まえた企業選びができるようにアドバイスをしています。
さらに、人工知能学会ではさまざまな活動をしていますが、学生向けだと「SIAI 産学クロススクエア『ミライをつくるAI人材』」というイベントにコーディネーターとして参画しています。このイベントは、AI技術を企業で生かしたい学生と、AI人財を求める企業が交流を深めることを目的としており、企業体験や交流会などを企画・実施しています。
今回人工知能学会の理事になった経緯を改めて教えて下さい。
大学院時代から現在に至るまで、データサイエンスや人工知能分野の専門家と個人的につながりを築いてきました。その中で、中高生向けのデータサイエンス教育の重要性と課題について議論を重ねたり、企業や学術機関からデータ分析のビジネス活用や教育プログラムに関するアドバイスを求められたりする機会が増えていきました。
データサイエンス教育における教材開発、指導法、運用、改善サイクルなど、多岐にわたる助言を続けてきた結果、その活動が評価され、さまざまな機関の方々から声がかかるようになり、人工知能学会との関係も始まります。まず、2023年度の全国大会にお声がけいただき、データサイエンス教育の現状と課題をテーマとしたセッションに講演者兼パネリストとして参加しました。その後、同年の人工知能学会主催の別イベントでは、日立システムズがスポンサー企業としてブース出展を決め、将来を担う学生たちと産業界とのマッチング機会創出に貢献しました。
2024年からは運営側の立場にもなり、「産業界連携委員会」の委員として参画するようになりました。こうした活動や推進力を評価していただき、この度推薦をいただいて理事に就任しました。
人工知能学会とはどのような団体か、改めて教えていただけますか?
一般社団法人人工知能学会は、日本の人工知能研究を牽引する学術団体です。人工知能に関する研究の進展と知識の普及を通じて、学術・技術、そして産業・社会の発展に寄与することを目的としています。
主な活動は、年に一度の全国大会や国際シンポジウムの開催、学会誌や論文誌の発行など多岐にわたります。
今回、人工知能学会理事に就任されたことについて、率直なお気持ちをお聞かせください。
大変光栄に思っています。日本においては、AIやデータサイエンス分野がまだ十分に浸透していない部分が多くあります。私がこれまで力を注いできたデータ利活用教育の普及と拡大を、理事としてさらに大きく推進でき、自分自身も飛躍的に成長できるのではないかと期待を抱いています。
理事として、どのような活動目標をお持ちでしょうか。
人工知能学会と聞くと堅いイメージがあるかもしれませんが、実際は柔らかい雰囲気で、メンバーが集まって自由に議論を重ねています。理事としての私の目標は、日本社会が抱えるAI人財と環境のギャップを埋めることです。
人工知能学会には約40年の歴史があり、AIの「冬の時代」も経験してきました。そのため、昨今のAIブームを冷静に見つめることができています。一方で、日本は十分な準備が整わないままAI活用社会に突入してしまい、多くの企業や公共団体は依然としてこの変化に対応しきれていないのが現状です。
ビジネスや社会課題の解決には、AIやDXに頼るだけでは不十分です。重要なのは、実現可能性と再現性を担保した、地に足のついた取り組みです。そのためには、適切な人財の育成が不可欠。数学、情報科学、社会学などの基礎を体系的に習得し、物事に対して真摯に取り組む姿勢を持つ人財が求められており、こうした素質を持った学生が実務経験やインターンシップを通じて才能を開花させることは多くあります。
今後は、私が培ってきたAI・データサイエンス教育のノウハウを生かし、日本を牽引していくAI・データサイエンスの教育者や研究者の育成、そしてその教育基盤の開発に取り組んでいきたいです。
具体的な活動予定があれば教えて下さい。
来年の人工知能学会全国大会に向けて、現在、活発に議論を重ねています。AI分野における教育や研究において、次なる指針を示すことができるよう、学会全体で取り組んでいく予定です。
学生たちも、第一線で活躍する方との交流を望んでいるかと思います。今後、学生たちとどのような形で関わっていきたいですか?
学生の方々との交流機会は積極的に作っていきたいと考えています。まず、大阪大学の招へい教授として、データサイエンスに関する講演や演習講義を行なっています。本気で学びたい方は、ぜひこちらにご参加ください。
また、人工知能学会の「産学クロススクエア」というイベントにもほぼ毎回参加しています。主に東京や大阪で開催していますので、直接お話しする機会として活用いただければと思います。
さらに、日立システムズへの入社に興味がある学生の方であれば、プレエントリー後に私が個別面談に対応することも可能です。キャリアや技術について、直接質問できる機会ですので、こちらもぜひ考えてみてください。
AI分野に興味を持ち始めた学生は「まず何から始めればいいか」と悩んでいる人も多いです。プログラミングや大学の学習はもちろんですが、まず何から始めるべきかアドバイスをお願いします。
まず、基礎を体系化して学ぶことが大切です。何らかの専門性を突き詰めることも大切かもしれませんが、それを実社会でのキャリアにつなげるためには、体系的な基礎知識が必要。基礎を固めることでさまざまな状況に対応できる人財になれて、顧客やチームからの信頼につながります。
そのため、まずは自分の知識の足りない部分を見つめ直し、それを埋めていく作業を学生のうちに行うべきです。そのうえで、アウトプットを重視してください。自分の知識がどこまで通用するのかを確かめるために、実践的な演習や講義、あるいは実際の案件に参加してみましょう。これにより、自分自身の成長課題が具体的に見えてくるはずですよ。
また、広く話を聞く耳を持つことも非常に重要です。研究に没頭すると視野が狭くなりがちですが、多様な意見に触れることで、さまざまな分野で活躍できる人財になれます。
日立システムズが求めるAI人財像について、教えて下さい。
私が思う、日立システムズに来ていただきたいAI人財は、「人財像(価値観・姿勢)」と「知識・スキル面(専門性・実践力)」の二つの面を満たしている方です。
人財像としては、何事にも真摯であることを重視しています。物事に対して誠実かつ丁寧に取り組む姿勢、困難な課題にも粘り強く向き合い、責任感を持ってやり抜く力が必要です。また、チームメンバーはもちろん、社内外の関係者との信頼関係を大切にし、誠意あるコミュニケーションを心がけることも重要です。一人で解決できない難しい課題に対しても、周囲の協力や指導を仰ぎながら、責任をもってやり遂げる姿勢を求めています。
知識・スキル面では、理論を理解し、実装・ビジネス活用を担えることが求められます。必須となるのは、統計学、機械学習、AIアルゴリズムなどの基礎理論の理解と、Pythonなどのプログラミング言語を用いたデータ分析・AIモデルの実装経験です。そのうえで、理論を現実の課題に適用するための応用力があること、そして、ビジネスや社会課題に対してデータサイエンスやAIを活用した解決策を提案・実行できる方を歓迎します。
AIエンジニアやシステムエンジニアとして日立システムズに入社した社員は、どのようなキャリアを歩むことが多いでしょうか。
日立システムズでは、まずシステムエンジニアとしてキャリアをスタートすることがほとんどです。これは、システム開発におけるスキルを体系的に習得し、さまざまな状況に対応できる人財としての基礎を築くためです。
その後、社員ひとりひとりの特性や能力、希望に合わせて、多様なキャリアパスが用意されています。例えば、統計学、機械学習、データ分析およびAI活用に強みを持つ方はデータサイエンティストやAIエンジニア、セキュリティ分野における専門知識があればセキュリティスペシャリストをめざすなど、専門分野を細分化してキャリアを築くことが可能です。その他にも、ITアーキテクトやプロジェクトマネージャー、品質管理エキスパートなど、多岐にわたる道があります。
日立システムズでは、社員の希望がキャリアに反映される傾向は強いのでしょうか?
はい、その傾向は強いと思います。私自身も希望を伝えて、それを実現させてもらった経験があり、周りでも同じような事例が多くあります。
大学院での研究活動と、日立システムズでのAI開発・研究に携わることの魅力や経験の違いは、どのような点にありますか。
日立システムズには、日本のほぼすべての業種のお客さまがいます。金融、公共、社会インフラ、製造業、物流、小売、サービス業など、幅広い分野のビジネスに携われることが大きな魅力です。
特定の分野における専門知識は大学院での研究から習得でき、一般的な教養は専門書や講義から学べますが、この会社では、業界・業種・職種固有の専門知識(ドメインナレッジ)を体系的に習得するチャンスがあります。多様な顧客の問題解決に深く関わることで知識の幅と深さがぐんと広がるのです。
ドメインナレッジを習得すると、その後のキャリアを自由に描けます。データサイエンスやAIのスペシャリストをめざすこともできますし、多くの経験を通じて培ったヒューマンスキルを生かし、経営層などさまざまな立場の方に響く提案ができるようになります。結果として、どんな職種でも通用する、応用力の高い人財へと成長できるのです。
最後に、次世代を担うAI人財へのメッセージをお願いします。
これからデータサイエンスやAIに取り組む学生の皆さんに、ぜひ理解しておいてほしいことが6つあります。
1.与えられた情報で何ができるかを問い続けてください。
ビジネスの現場では、欲しいデータがすべて揃っていることはほとんどありません。与えられた限られた情報から解決策を導き出し、お客さまに貢献する力が求められます。
2.理論上の精度だけを追い求めないでください。
機械学習や深層学習の手法を適用したり、パラメーターを調整したりするだけで、すべての課題が解決するわけではありません。教科書に載っている素晴らしい精度や結果は、データが理想的な条件を満たしているからこそ出せるものだと認識しておきましょう。
3.想定外の結論も受け入れる姿勢を持ちましょう。
データ分析やAI開発の目的は、必ずしも想定どおりの結論を得ることだけではありません。「このデータでは目的達成は難しい。しかし、もし〇〇のようなデータがあれば達成できる可能性がある」というような、見えていない部分を具体的に捉える視点も重要です。
4.データやツールの結果について、一面だけ見て判断してはいけません。
一面だけで判断したり、思い込みだけで突き進んだりしてはいけません。すんなり結論付けするよりも、迷い、悩んだ方がデータ分析としては良い面も出てきます。データサイエンスでは「試行錯誤を重ねること」こそが、価値ある結果につなげるための不可欠なプロセスなのです。
5.複数の客観的指標で事実を明らかにしましょう
一つの指標だけで成果を判断するのは危険です。精度や信頼性の評価指標は数多くあり、その中から何を採用するかは慎重に検討することが肝要です。知っている指標だけで評価しようとはせずに、課題解決や価値創出といった目的を達成するために最適な指標を選ぶことが大切です。
6.分析結果をお客さまに伝えるまでが仕事です。
分析して終わりではありません。分析結果を依頼者や顧客が解釈でき、具体的なアクションにつなげられる形に変換して伝えるまでが、データサイエンティストの責任範囲です。
一言でまとめると、データサイエンスは決して簡単ではありません。しかし、簡単ではないからこそ奥が深く、一生学び続けられる学問とも言えます。常にアウトプットを意識し、とことん追求する姿勢を大切にしてください。
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