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(マンガの続き)
日比野「俺たちがめざさなければならないのは3つだ。1つは当然、モリモリ青果店の経営を改善させること。もう1つは、俺たちが勝つこと」
あすな「はい…(こないだ門前払いされちゃったけど、大丈夫かしら)」
日比野「そして最後は…安田が勝つことだ」
あすな「えっ…私たちも勝って、安田さんも勝つ…そんなこと、できるんですか?」
日比野「お前は何も分かってないな。まず…単にあの店がコンビニになるのを見守っていたら、森社長は本当に幸せになれるのか、それに俺もH社に戻る羽目になる…それがイヤだといって、俺があいつに従わなかった時点で、お前の内定は保証されない。その上安田に負けてしまったら、何も得るものはない」
あすな「それくらい…分かってますよ!」
日比野「では、あいつに負け戦をさせるとしよう。例えば…あの店がコンビニにならないとする。安田のプライドを傷つけた上で、それでもお前はH社に行けるのか?」
あすな「うっ…じゃあ、どうしたらいいんですか!?」
日比野「何も難しい話じゃないさ。思い出してみろ。俺たちが今まで一度でも、誰かを負かす仕事を、したことがあったか?」
思い出してみれば、日比野の言うとおりだ。美容室と喫茶店、学習塾とリトミック教室…私たちは、巻き込んだ人を皆、幸せにしてきたはずじゃないか。
日比野「いつも通りやれば良い。ただそれだけだ…ごちそうさま」
日比野のいつになく優しい声に、あすなは自分の抱えていた不安が少しずつかき消えていくのを感じていた。そして同時に「内定が出て、H社に入ったら…お別れなのよね」と、寂しさがこみ上げてくるのを、必死にこらえていた。
翌日の午後、あすながビジネス・キューピッドに行くと、既にナミがあすなのことを待っていた。
ナミ「さあ、あすなちゃん。始めましょう」
あすな「はい!」
ナミ「まずは、午前中の成果を教えてちょうだい」
あすなは午前中、モリモリ青果店を訪れていた。ナミからの課題は「モリモリ青果店の強みと弱み」を調べてくること、だった。
ナミ「結局、社長は話をしてくれたの?」
あすな「はい、何とか…」
今回も門前払いになりかけたあすなだったが、美容室の「セゾン・ド・ボーテ」の時と同じく、野菜を買いに来た客として社長から無理やり話を聞いたのだった。
ナミ「何か、わかったことはある?」
あすな「はい。まず、モリモリ青果店の社長さんなんですが、想像以上に野菜のことに詳しかったんです!」
ナミ「あら…どんな風に?」
ナミはあすなに質問を投げかけながら、その報告を逐一ホワイトボードに書き写し、このような図ができ上がった。
機会(Opportunity) | 脅威(Threat) | ||
---|---|---|---|
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強み |
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強み×機会 | 強み×脅威 |
弱み |
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弱み×機会 | 弱み×脅威 |
ナミ「うん、SWOTの一覧表ができたわね」
あすな「す、すうぉっと、ですか?」
ナミ「ええ。Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの頭文字をあわせたものよ」
あすな「へぇ…すごい」
相変わらずのナミの知識に、あすなはため息をついた。もっとも、日比野のビジネスへの見識の深さは、そんなナミをはるかに凌駕する。
ナミ「こうやって、内部要因である強み・弱みと、外部要因である機会・脅威を照らし合わせると、何をすべきか、だんだん見えてくる気がしない?」
あすな「…」
ナミの問いかけに、あすなは答えない。「どうかした?」とナミが訊くと、
あすな「ナミさん…わたし、とんでもないことに気づいちゃったんです」
ナミ「なぁに?こういうときは思いついたことをどんどん話すほうがいいのよ。どんな発言も否定しないから、言ってみて?」
そういわれて、あすなは恐る恐る、ナミの顔色をうかがうようにしながらポツンと言った。
あすな「…やっぱり、モリモリ青果店がコンビニになるのって、おかしいことじゃないんじゃないでしょうか?」
あすなの意見は、ライバルである安田のやろうとしていることを後押ししたようなものであるから、一種のタブーであるように思われた。だが、その発言を聞いたナミは意外にもニッコリと笑った。
ナミ「そうね…さすがは社長のライバル。コンビニにするのは良いアイデアだと思うわ」
あすな「えっ……そうなんですか?」
自分でアイデアを出しておきながら、あすなは信じられないような顔でそう訊いた。
ナミ「ええ、ほら…これらの4つのマスを見れば分かる。コンビニにすれば立地という強みを生かせるし、店舗も新しくリニューアルできるから、弱みをつぶすこともできるわ。後継者がいなくても、コンビニなら本社のサポートがあるから誰でも経営しやすいし」
あすな「やっぱり…そうなんだ」
ナミ「あすなちゃん、感心している場合ではないわよ。社長のことばを覚えてる?儲かるのは、誰か…」
あすな「そうでした…」
そう、コンビニに商売替えしても、森社長が必ず豊かになれるわけではない。
あすな「じゃあ、ほかの解決策を考えないといけないですよね…」
ナミ「そうね。でも、その前に…今のディスカッションの内容を整理してみるわね」
そう言うと、ナミはSWOTの表の「弱み」に書かれた2つの項目に、赤線を引いた。
ナミ「確かに、コンビニになるとこれらの弱みは解決できるし、コンビニのブランド力という強みも加わるわ・・・でも、そのことによって、モリモリ青果店には別の脅威が生じるわけよね?」
あすな「えっと・・・・・・H社?」
ナミ「そう。厳密には、H社が不動産取引に介在して、そこからはコンビニの本社が経営に口出しするようになる。モリモリ青果店は今までのように自由に経営することが出来なくなってしまうわ」
ナミが書き加えたSWOTの表を見て、あすなは「うーん」と唸った。
機会(Opportunity) | 脅威(Threat) | ||
---|---|---|---|
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強み |
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強み×機会 | 強み×脅威 |
弱み |
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弱み×機会 | 弱み×脅威 |
あすな「新たな脅威が、そのまま森社長の収入を減らしてしまう要因、ということですよね?」
ナミ「そうね。さぁ、どうしたらいいかしら?」
あすな「…」
あすなはジッと考え込む。それをナミは、黙って見つめている。数分後、あすなは「うん、これしかない」とつぶやいて、
あすな「ナミさん…損益計算書、持ってますか?」
と訊いた。
ナミ「えっ?もちろんあるけど…」
ナミが損益計算書のコピーを見せると、あすなはそれをひと目見て、
あすな「やっぱり…!」
と小さく叫んだ。
ナミ「あすなちゃん…もしかして?」
あすな「うん、…うまく行くか分からないけど、これならいけるかも」
そういったあすなの眼には、自信がみなぎっていた。
ナミ「いいわ…聞かせて?」
つづく
今回、あすなは「SWOT分析」という新しいフレームワークを活用して、モリモリ青果店を救おうとしています。 Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの頭文字からなる「SWOT」。では次のうち、SWOTの「Opportunity(機会)」に該当する可能性があるのは、どれでしょうか?
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