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(マンガの続き)
日比野:「分からないのか…」
あすなが手詰まりであることを察したのか、日比野は「やれやれ」という感じで、
日比野:「分からないなら、ここに居座る必要はないんじゃないか?だったらそろそろ店から出ていってやれ、迷惑だぞ」
そう言って、自動ドアのボタンを押した。
店員:「ありがとうございました~」
見送りのために店員が日比野に笑顔を見せる。それに応えてから、日比野は店を出ようとしたが、
日比野:「…ああ、そうだ」と言って、くるりとあすなの方を向き、
「おい、お前」
あすか:「…何よ?」
日比野:「まる一日掛けて売上を調べた褒美に、お前の名前を覚えてやろう」
あすか:「…な、何よその言い方?」
いくら年上とはいえ、そんなものの言い方があるだろうか。しかし日比野は動じない。
日比野:「お前は俺の名刺を見たんだろう?だったらお前も名乗ってくれていいはずだ」
あすな:「…道草あすな」
仕方なく、ポツリと名前を言った。
それを聞き届けた日比野は返事もせずに背中を向け、去っていく。
あすな:「まったく、何よ…」
プリプリと怒っているあすなの後ろで、申し訳なさそうに店員が立っている。
店員:「あの、あすなちゃん」
あすな:「なあに?」
店員:「ごめんなさい、もうすぐで掃除の時間だから…」
この店は午後2時を過ぎると、清掃と仕込みのため一度店を閉めるのだった。
やむを得ず、中華料理屋の向かいにある喫茶店に入ったあすなは、苛立たしげにアイスコーヒーの入ったグラスの氷をストローで何度も突き刺していた。そのたびに、グラスの中で氷が音を立てる。
あすな:「何よあいつ、何が、名前を覚えてやる…よ!」
日比野の横柄な態度を思い出すたびに腹が立つ。そもそも日比野の言うことを聞いて損益計算書を作ったところで、本当にH社に就職するために役立つ情報をもらえるという保証はない。今までどおりのやり方で、皆と同じように就職活動を地道に続けていたほうが、良いのではないだろうか?
あすな:「…やめちゃおっかな」
しかし、とあすなは考えた。このままこの課題を投げ出しても、あの中華料理屋に行けばまた日比野と顔を合わせる羽目になる。もちろんこの辺りにはほかにもたくさんお店はあるが、あの値段であれだけのボリュームを食べさせてくれるところ、となるとそう多くはない。
あすな:「それはイヤだなぁ…」
それに、何となくあすなは日比野のことが気になっていた。傲慢とすら思えるほどの、自信に溢れた物言い。手帳にイニシャルだけで書いていた「H社」を不動産業であると言い当てたことも、日比野の実力を示しているような気がする。さらには「社長」という肩書きも、只者ではなさそうな雰囲気に説得力を与えていた。
もしかしたら…このまま課題に取り組めば、本当に良いことがあるかもしれない。
あすな:「仕方ない、やりますか」
結局あすなはそう決めて、先ほどのノートを開いた。
昨夜の売り上げは70,680円、今日のランチタイムは82,320円だから、1日の売り上げの金額は、この2つの数字を足した15万円ほどになる。
あすなは自分なりにテキストを復習して、損益計算書を作るのに必要な項目をノートに書きとめていた。
売上高 15万円/日
売上原価 ?
人件費 ?
賃借料 ?
水道光熱費 ?
広告宣伝費 ?
実際には、ほかにも細かいものがたくさんあるのだが、これらが分かればあのお店のおおよその損益計算書ができるはずだ。しかし、今のところ分かっているのは売上高だけ。残りの5つの費用を、どうやって調べればいいだろう。
先ほどの日比野のリアクションを見る限り、売上高を丸一日かけて調べたことは、ムダではなかったようだ。だとしたら、やはり答えは「現場」にあるのではないだろうか?
あすな:「そうよ…それしかない」
あすなは夕方の営業時間が始まるのを待って、もう一度あの店を訪れてみようと思った。
店員:「いらっしゃいませ~。あら、あすなちゃん」
店に入ると、いつもの店員が怪訝そうな顔をしてやってきた。
店員:「何か、忘れ物?」
あすな:「ううん…えっと、今日の日替わりは?」
さすがに何も食べずに居座ることはできないだろうと思い、あすなは今日もここで夕食を食べる心積もりをしていた。
店員:「今日は酢豚よ?」
あすな:「うん、じゃぁお願い」
そう言ってあすなはカウンター席に座り、カバンから先ほどのノートを取り出した。この店から聞き出さないといけないのは、売上原価、人件費、賃借料、水道光熱費。全部聞き出せれば、それで全てが終わるはずだ。
店員がコップに入った水を持ってきた。
店員:「はい、いつもありがとう…でも、2日続けて来るなんて珍しいわね」
その一言だけで、店員はその場を離れようとしたが、あすなはそれを「ちょ、ちょっと」と呼び止めた。
あすな:「店長さんって、どの人?」
店員:「ああ、店長なら厨房の奥にいる人だけど…」
カウンターの向こうの厨房で鍋を振っている強面の男を指差した。次の瞬間、あすなは厨房に向かって大きな声を出した。
あすな:「あの~、店長さん!すみません!」
店員:「ちょ、ちょっと…」
と店員が止めても、お構い無しである。しかし、意外にも店長はこちらを向いて、「はいよ」と返事をしてあすなの正面までやってきた。
店長:「お客さん、どうかしました?」
愛想よく店長は話しかけてきたが、近くで見ると迫力が感じられた。あすなは思わず「ごくり」と生唾を飲み込んだ。
店長:「あ、もしかして料理がまだ来てないとか?」
あすな:「いえ、違うんです。実は…その」
店長:「なんでしょうか?どうぞ何なりとおっしゃってください」
店長の営業スマイルに促され、あすなは思い切って聞いた。
あすな:「実は、その、原価率を、教えてほしいんです!お願いします!」
店長の顔から笑顔が消え、表情がグッと険しくなる。
店長:「お客さん、冗談はよしてくれよ」
しかしあすなはムキになって
あすな:「冗談じゃありません。本当に知りたいんです!」
と言い返す。
すると、店長はあすなを黙らせるように、握り拳でカウンターをドン!と叩いた。
店長:「お客さん、分かるだろ!?そういう大事なことは部外者には言えないんだわ」
そう言い捨てて、店長は厨房の奥へと消えていってしまった。
あすな:「ああ、どうしよう…」
食事を終えて(よくそんな状況で食事ができたものだが)店を出たあすなは、思わず涙ぐんでいた。これでまた、就職活動はいばらの道。しかもこの店にはもう二度と来られないかもしれない。「職」と「食」。二つの「ショク」に暗雲が立ち込めている。こんなはずじゃなかったのに。
あすな:「ああ、もう!どうしたらいいのよ!?」
天を仰いで思わず叫んでいた。周りの人がびっくりして振り返る。
しかし次の瞬間、あすなは意外な「救いの声」を聞く。
ナミ:「私が、力になります」
あすな:「えっ?」
声のしたほうを見ると、背の低い女性が立っていた。
ナミ:「道草あすなさん…でしょ?」
あすな:「そうですけど…」
ナミ:「やっぱりそうなのね?よかった…私、こういうものなんです」
女性はゆっくりとした動作で名刺を取り出した。
見覚えのあるフォントの名刺。そこにはこう書いてあった。
株式会社ビジネス・キューピッド 社長室 大木ナミ
つづく
あすなは今、中華料理屋「龍流」の損益計算書を作ろうと奮闘しています。店長からは原価率を教えてもらえなかったようですが、一般的なラーメン店における原価率(売上に対する原材料費の割合)を示しているのは、次のうちどれでしょうか?
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