人工知能(AI)や機械学習により、金融の世界はまさに変革のときを迎え、銀行取引にかかわる体験が次世代に向けて変化しつつあります。銀行の多くや保険業界はいまだにAI技術導入の初期段階にいますが、それでもAI技術の影響は非常に大きくなっています。AIはサービス提供と雇用の両面を大きく変えています。投資支援、消費者金融、信用評価、スマートコントラクトなど、銀行運営に関わる多くの金融サービスに変化が起きています。
AIの影響は、銀行や保険会社のすべての「オフィス」、つまりフロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスに及んでいます。AIの複雑な機械学習により、マネーロンダリング対策、膨大なデータ内の異常検知による不正防止、顧客と対話してサービスを提供するチャットボットなどが実現されています。
銀行業務には、コンピューティング技術、機械学習、利用者に対する音声認識や顔認識の進歩が非常に大きな影響をもたらすと考えられています。フルタイム社員1億4,000万人分の仕事を置き換える可能性があり、その影響は6兆米ドルに上ると見られています。
世界経済フォーラムがデロイトとの協力により発表した2018年のレポートでは、銀行業界のCEOの76%が「AIは差別化に必須であるため、最優先事項だ」という意見に賛同したとされています。PwC(プライスウォーターハウス・クーパース)の研究によると、金融サービス業界の経営幹部の52%は現在AIに「かなりの」投資をしており、企業の意思決定者の72%がAIは将来のビジネスにプラスになると考えています。
Allied Market Analytics(米国の調査会社)は、世界のオンラインバンキング市場は2023年までに299億8,000万ドルに達し、2017年~2023年の年平均成長率(CAGR)は22.6%に上ると予測しています。アナリストたちは、銀行業界でのAIによるコスト削減額は2030年までに1兆ドルになると見込んでいます。
Narrative ScienceとNational Business Research Instituteによる調査では、金融サービス企業の経営幹部の32%が、予測分析、レコメンデーションエンジン、音声認識などのAI技術を既に使用していることを認めています。
Autonomous Nextの研究では、AI活用による銀行のコスト削減可能累計額は2023年までに4,470億ドルとなり、その総額のうち4,160億ドルはフロントオフィスとミドルオフィスが占めると予測されています。AI技術は、コストの削減と、拡大する顧客の需要への対応を可能にします。2020年までに、金融取引の5%は自律ソフトウェアによって処理されるようになるという予測もあります。
OpenTextによる金融サービス専門家を対象とした調査では、80%の銀行がAIの潜在的メリットを強く意識しているという結果が出ています。多くの銀行がAIソリューションの導入を計画しています。UBS Evidence Labのレポートでは、資産額1,000億ドル以上の銀行の75%の回答者が、現在AI戦略を実行していると答えています。資産額1,000億ドル未満の銀行では、この割合は46%でした。
アルゴリズムによる取引システムは、現在、世界中の取引の75%を処理しており、この数字は今後も確実に大きくなると予測されています。
保険業界では、経営幹部の約75%が、今後数年のうちに、業界全体に大きな変化あるいは全面的な変革が起きると考えています。2030年までに、人工知能により、自動車保険や生命保険の保険料が通行する道路などの要素に基づいて変動するようになるとマッキンゼーは予測しています。アクセンチュアの調査によると、顧客の74%はモダンテクノロジーを歓迎し、保険のアドバイスをコンピューターが生み出すシステムを高く評価しています。
金融サービスにおける一部のAIの使用実例は、銀行業務でも既に受け入れられています。特に発展しているものとして、フロントオフィスでのチャットボットや、ミドルオフィスでの不正決済対策があります。
投資銀行では、長年にわたる取り引きの過去データが存在するので、AI活用の下地が十分に整っていると思われます。大手銀行は、膨大な数の顧客に対応しなければならないことから、当然の流れとしてチャットボットによるカスタマーサービスの自動化に目を向けています。ヘッジファンドのような金融機関は、新しい多様なデータソースとAIを使って平均以上のリターンを追い求めています。発展途上国の金融機関の多くは、現在のところ、AIの活用に必要なデータインフラストラクチャーの構築に苦戦している段階です。
AI導入のパイオニア層と出遅れ層の間のギャップは広がっています。先進的な金融機関の間では、金融やフィンテックにディスラプション(破壊的変革)を起こす可能性のあるAIをめぐって今後も競争が続くでしょう。大手銀行は、イノベーションの重要性も、ビジネスにおけるAI活用の重要性も理解しており、その利益を手にし始めています。また、中小の金融機関も大手に追いつこうと努力を重ねています。
AIの現在の導入目的としては、多様な決済の分類、支払い履歴に基づいた顧客への提案などがあります。また、助言の情報ソースを提供したり、チャットボットを介して顧客からの一般的な問い合わせに答えるために必要な資料を提供したりすることもあります。
AIのおかげで、銀行は人間の熟練者に頼らなくても済むようになってきています。これにより、行員はより良い体験を顧客に提供することに注力できます。銀行業務では、本質的な問題を解決したり、資金を管理したりすることで顧客とより有意義な会話を成立させるためにAIが使われています。金融サービスのAIソリューションとしては、例えば、自動資産管理アドバイザーがあります。これは、膨大なデータを分析して、特定の顧客に向けて助言をしたり、資金の運用計画を策定したりします。また、スマートウォレットは、顧客の習慣を監視して学習し、より良いお金の使い方を提案します。このほかにも、保険の引き受けを自動化する保険システム、金融ニーズの判断に際してユーザーを支援する仮想アシスタント、顧客が相互に融資をしたり投資を共有したりすることを可能にする金融ソーシャルネットワークなどがあります。さらに、AIは顧客の行動パターンを監視して不正行為の兆候を検知することもできます。
従来の銀行のデジタル化を求める声も大きくなっているため、一部の金融機関は、コストを抑えつつ安全にサービスや取り引きをデジタル化できる優れたソリューションを探しています。
銀行の中核業務全体を、処理を自動化して学習により自己改善する機械を使って実行する能力は、銀行のバックオフィスやそのシステムを大きく変えます。
そこに、顧客と対話する能力や、銀行に対するニーズを学習してそれに対応する能力を連携させると、その効果は一層大きくなります。最近の銀行の顧客、特にミレニアル世代は、銀行窓口を実際に訪れることは少なく、オンラインバンキングや携帯端末からの操作を好みます。
AI戦略として、銀行の事業分野の拡大、使用できるデータの増強、外部パートナーとの協力強化、有能な社員の獲得を進めていく必要があります。
今後5年間の業界動向の見通しでは、完全にAIがその中心になっています。例えば、データを構造化するインテリジェントなデータプラットフォームや、顧客の好みや意図を絶えず学習するダイナミックアルゴリズムなどが挙げられています。
銀行は、以前から顧客の収入額、クレジットスコア、消費傾向などのデータを活用して商品の宣伝、クロスセル、アップセルを行い、売り上げを伸ばしてきました。最近では、新しい技術の登場により銀行が利用できるデータが増え、新しい方法で売り上げを伸ばすことも可能になっています。AIによって、銀行の予測モデルは大きく変わります。AIがデータや分析を活用してより的確な予測を行うことで、ビジネスに非常に大きな効果がもたらされます。
例として、学生ローンのために6年前に銀行を初めて利用したミレニアル世代の顧客のカスタマージャーニーを考えてみましょう。彼は当初から、あらゆるもののデジタル化を歓迎していました。そして、彼の銀行へのニーズは時間の経過とともに変わっていきます。銀行では、従来のデータベースと毎月のクレジットスコアから彼のクレジットに関する行動を観察していました。しかし、学生ローンや銀行に関係しない商品・サービスの支払い記録など、デジタルフットプリントとして残された彼の行動や嗜好に関する大量のデータも存在します。そうしたデジタルの兆候を拾い上げることができない銀行は、彼が住宅ローンを必要としていたとしても、彼が申し込みに来ない限りそのニーズに気付くことができません。受け身の銀行は後手に回ることになります。一方、AIと機械学習を使ってより詳細な分析を速く行うことができる銀行であれば、彼のデジタルフットプリントや支払い記録から的確な情報を取得し、新しいニーズに先手を打つことができます。
銀行でもそれ以外の金融サービスでも、カスタマーサービスは今後も必要不可欠なものであり続けます。これこそが、この分野で機械学習が必要とされている理由です。
銀行にとっては、より良い体験を顧客に提供できるかどうかが非常に大切です。AI技術は、顧客ごとに高度にパーソナライズされた体験を提供することを可能にします。インテリジェント音声ツールやチャットボットの登場により、銀行と顧客の対話やコミュニケーションの方法は新しいものに変わりつつあります。消費者は、銀行取引用Alexaのような個人向けデジタルアシスタントを使って、家計管理や老後の貯蓄などについて自分に合った情報を豊富に入手することができます。
上級幹部たちの多くは、2021年までに、消費者はコールセンターのオペレーターよりも、AIの認識エージェントによるサービスを好むようになるだろうと考えています。ここで銀行側が注意しておくべきことは、スマートアシスタントは、ほかのシステムと統合されて顧客の全体を把握できたときに初めてベストな働きができるという点です。仮想アシスタントには豊富な知識とコンテンツ基盤が必要です。それらがそろえば、単純な取引情報だけでなく、より有意義な見識や、消費者の経済的安定に寄与するようなアドバイスをデジタルアシスタントで提供することが可能です。
AIは、銀行が持つデータから有用な情報を抽出して、パーソナライズされたスマートなユーザー体験を作り出せます。これにより、銀行はより顧客に注力することが可能になります。顧客のカスタマージャーニーをそれぞれの顧客に合わせてより良いものにし、それを可能な限りスムーズに進めるために、データを活用してリアルタイムのレコメンデーションを提供するなどの機能を使うことができます。
銀行業務におけるAIソリューションでは、ATM、ウェブサイト、デジタルウォレット、PoSシステム、携帯端末など、データが収集された手段にかかわらず、収集した膨大なデータをいかに有効活用するかが重要です。
高い顧客エンゲージメントを持続していくためには、顧客の過去データをすべて把握して、その顧客個人の銀行に関する習慣やニーズを理解する必要があります。物理店舗、ウェブ、デジタル、モバイルなどすべてのチャネルにわたって最適なプロセスを設計し、実装することができなければ、顧客に効果的にサービスを提供したり、より良い体験を提供したりすることはできません。このため、銀行はアプリケーション、API、サードパーティーなど、あらゆるソースからの顧客データを統合できる総合的なエンタープライズシステムを要求しています。こうしたシステムでAIを使うことによって、リアルタイムのレコメンデーションを提供し、ロイヤルティー、定着率、そして価値を高められます。AIとオムニチャネル活用のこのような連携が、顧客体験全体に新しい価値を生み出します。
例えば、次のようなことが考えられます。
リアルタイムの取引分析は非常に重要です。銀行がタイムリーにデータを取得して取り引きを管理するためには、これが欠かせません。リアルタイム分析は、顧客の理解に役立つだけでなく、AIや深層学習の活用に必要なデータセットを提供してくれます。こうした情報から継続的に顧客の消費習慣を学習することにより、個々の顧客に合わせて付加価値の高い商品を提供することが可能になります。現在の銀行は、このような情報に基づくAIの判断により、厳選した金融サービスを提供したり、以前より的確なアドバイスを行ったりすることができるようになっています。顧客のプロファイルや好みに関する情報を活用することで、個々のニーズに合わせて商品やサービスを組み合わせることもできます。
銀行は、顧客ロイヤルティーや生涯価値の高い商品を、以前より多く開発できるようになっています。AIベースの意思決定ツールがあれば、顧客ごとにその人の資産管理にベストな商品やサービスを選び、その顧客をより的確に、より確実に支援できるようになります。
AIベースの意思決定は、最終的には、銀行内のワークフローの迅速化、顧客からコールセンターへの問い合わせの削減、カスタマーサービスの改善につながります。
AIの賢い活用とは、銀行業務を自動化と強化の両面から考えることを意味します。例えば、チャットボットを導入した場合は、そこから有用な情報を得て、行員の生産性向上や顧客対応の改善を図ることができます。
AIを活用する銀行は、情報を有効活用できる業務環境を手に入れられます。これにより、顧客を手助けしたり情報提供したりすることで顧客が自身の資産をより上手に管理できるようになるだけでなく、顧客の経済的安定に貢献することもできます。
AIは、個人の金融ニーズに合わせてよりパーソナライズした商品を提供することを可能にします。銀行は、消費者への対応を自動化、個別化すると同時に、これまでにない次元の便利さを顧客に提供できます。
デジタル化によって、量販型のサービスを、顧客それぞれの行動、好み、要件に基づいて個人に合わせたカスタマイズサービスへと転換できます。この転換が、銀行にとっては競争上の強みとなります。コンプライアンスの強化、顧客エンゲージメントのさらなる獲得、業務全体の効率化を実現できるほか、顧客の消費習慣に関するデータが十分に蓄積されていれば、その顧客のニーズに合わせて、例えば、特定の種類のローンを勧めたり、別の種類の口座を提案したりすることができます。住宅ローン、自動車ローンなどの金融商品をカスタマイズして、金利、期間、またはその顧客にとって重要な条件を変えることもできます。一方消費者は、関心のある金融商品について、自分に合った的確なレコメンデーションを得られるようになります。あるいは、まさに欲しいものを勧めてくれる、新しいタイプの広告が表示されるようになるかもしれません。スマートな資産管理、カスタマイズされた金融商品、利用しやすさと直観的な使いやすさは、金融業界のあらゆるレベルに存在する一般的な消費者にとってメリットとなり、消費者の利益に大きく貢献できる可能性があります。
法規制が厳しく、コンプライアンスが金融機関にとっての課題となるような環境では、そうしたことへの適応力も1つの競争優位性となります。最近では、暗号通貨、シェアリングエコノミー、マーケットプレイス貸し出しなど多様な決済や投資のシステムが利用できるようになってきていますが、それらがマネーロンダリングに使われることも増えています。状況は複雑化しています。公にならないデジタルネットワークが増えたということはもちろんですが、それだけではなく、昔ながらの方法とデジタルな方法を織り交ぜて行う巧妙なロンダリングが数多く考え出されています。深層学習やコンピュータービジョンという形でAIを活用すれば、データを探索してすばやくパターンを特定できます。これは、従来のアプローチでは不可能な方法です。
AIは、銀行の競争力の強化にも役立ちます。消費者銀行では、AIによって、金融に関するアドバイスを多くの人に受けてもらえる可能性が生まれました。カードを使ったり、友人にお金を送ったりするたびに、消費者はデジタルフットプリントを残します。消費者銀行は、他行との差別化を図るために、金融に関するアドバイスを消費者に日々提供することが可能です。AIを使うことで、そうしたアドバイスを極めて低いコストで提供できます。AIにより、銀行は単なるサービス提供者から、より良い資産管理のためのアドバイザーへと変わることができます。
効率的で制御の徹底している新しい運用モデルを導入することにより、銀行はコストを削減できます。人工知能やロボティックプロセスオートメーション(RPA)を導入して、人間が行ってきた定型作業や繰り返し作業を肩代わりさせることができます。
小切手を預け入れるプロセスに窓口係やATMが必要でなくなれば、コストは大きく下がります。消費者は携帯電話を使って小切手を預け入れ、AIがコンピュータービジョンを通して小切手の画像を取得して処理します。小切手の画像処理は以前から行われていましたが、コンピュータービジョンの進歩により、手書きの文字を正確に認識できるようになるなど、この処理は格段に改善されています。
AIはインテリジェントチャットボットとして機能することもできます。パスワードのリセットや残高確認などの簡単な問い合わせに答えることができるため、コールセンターの規模を縮小し、運用コストを削減することが可能です。
銀行が人間的なふれあいを排除しているように見えるかもしれませんが、デジタルフットプリントから得られる情報のおかげで、個別化の度合いは増し、個々のカスタマージャーニーは改善されています。個人のデータに基づいてサービスをカスタマイズすることには、消費者からの期待も高まっています。
金融業界のAI導入を妨げる要因としては、次のようなものがあります。
銀行・金融サービス・保険の各社は、スマートスピーカー、デジタル署名、ウエアラブるデバイスなどの技術に積極的になるだろうと予測されています。AI体験によって消費者を驚かせ、楽しませるチャンスを各社がそれぞれに探っています。
AIが組み込まれた製品を、消費者は既に使用しています。銀行取引アプリや投資アプリなどでは、直観的なユーザー体験を作り出すためにAIが使われています。金融の知識を持ち、テクノロジーにも慣れた若い世代が主流になってくるのに合わせて、銀行や金融スタートアップは、クレジットスコアの改善、投資リターンの確認などの処理が行える製品をさらに提供することが必要になってくるでしょう。
デジタルフットプリントの拡大と高速化: ウェブサイトとモバイルアプリの普及は今後も速いスピードで続くと思われます。銀行は、顧客の高まる期待に合わせて、複数のチャネルを選択肢として検討していくことになるでしょう。
対話型の多目的インターフェースインターフェース: 顧客は、金融機関とのやり取りでは、対話式操作でいろいろなことができるインターフェースインターフェースを既に経験しています。これに加えて銀行は、オンラインショッピングサイトの拡大を視野に入れ、スマートフォンなどの携帯端末と連携した取引機能の強化を求めるニーズにも応えています。
インテリジェント分析: 分析は、銀行業界では大きな要因となっています。銀行業界で生成されるデータの量は今後数年間で大幅に増えると見込まれています。このあふれ出るビッグデータを最も効率的に扱うことができるのが分析ツールです。銀行は、リアルタイムでのビッグデータ分析を、生産性の向上や顧客体験の改善に必要な意思決定に活用できます。分析の用途はほかにもあります。顧客の消費パターンを特定したり、取り引きを行うときに最も好まれるチャネルを見つけたりすることができます。また、不正防止やリスク評価にも使われるほか、顧客からのフィードバックを分析して必要な変更を適用するといったケースも考えられます。
モバイルバンキング: モバイルバンキングには、AIカスタマーサービスや、セキュリティおよび不正検知のイノベーションが直接的に影響します。モバイルバンキングの中核機能は、年中無休で銀行取引サービスを提供することです。これにより、カスタマーサポート要員の労力をより複雑な作業に向けることを可能にします。銀行はモバイルフレンドリーなアプリケーションの提供により力を入れています。ウェブサイトへの訪問を増やし、新たな顧客を獲得することをめざしています。
ここで、いくつかのユースケースと、多くの金融機関が価値創出のために積極的に追求しているAIソリューションを紹介します。当然ながら、金融業界が実施しているAI施策のすべてをここで網羅することはできませんが、特に人気のあるユースケースとソリューションを紹介したいと思います。
ロボットアドバイザーは、従来の資産管理(2018年時点の受託資産額は2兆2,000億米ドル)に破壊的変革をもたらした主要な技術です。ロボット助言サービスを提供するスタートアップは、管理されたポートフォリオを低コストでユーザーに提供します。
投資家の中には、売買の判断を含め自分でできることは自分でやろうとする人もいれば、料金が高くても豊富なアドバイスをくれる従来型の充実した助言サービスを好む人もいます。ロボット助言のスタートアップは、AIによる効率化を活かし、このような投資家たちの中間に位置する人々にサービスを提供しています。
資産管理を行う企業は、投資家や顧客に代わって的確な投資判断をリアルタイムで行うために、機械学習やビッグデータの活用を増やしています。こうした資産管理のアルゴリズムは、いくつかの異なる方向で進歩を遂げています。例えば、より多くのデータを意思決定ツリーに取り込もうとするもの、途中で新しいストラテジーを試して自己改善をするもの、資産の多様化を考慮して視野を広げようとするものなどがあります。
銀行では、セキュリティの強化と不正取引の防止のために生体認証が導入されています。銀行はサービスのセキュリティをより厳重にする方法を追求しており、認証手段を増やすことで顧客とのデジタルトラストを構築するなどの対策を行っています。金融機関は、無数のパスワードを覚える煩わしさを解消するため、顔認識や声紋認識、生体認証を取り入れようとしています。オンラインバンキング市場では、指紋認証のほかに、生体認証の1つであるキーストローク認証の導入も期待されています。キーボードの打ち方は人によってまったく異なるパターンを示すため、これを測定して記録したものを比較することで、生体認証として使用することができます。キーストローク認証は大きな資本が不要なので、第2世代の生体認証として手軽に利用できる可能性があります。
Primer(米国、サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ)は、自然言語処理および自然言語生成によって、アナリストがよく行うタスク(検索、読み上げ、相互参照、要約など)を自動化しました。
今では、この技術は、大量のオンラインデータから重要な信号を抽出することに価値を置く融資会社にも本質的に適していると考えられています。
また、読み書きはほとんどの仕事において重要な能力であるため、この技術がほかの業界に波及する可能性も高いと思われます。
機械学習の進歩により、開発者が作成する取引アルゴリズムは多様化し、同じような種類の判断に頼ることは少なくなってきています。機械学習では、より良いアルゴリズムを生み出していく継続的な自己改善が可能なので、そうした課題も前もって避けることができます。
アルゴリズム取引は機械学習に大きく依存します。機械学習は、膨大な量のデータを同時に分析することによって、見込まれる利益とリスクの可能性の両方を評価し、取り引きの判断時に確実な評価結果を提供できます。
人工知能はこの分野に間違いなく大きな影響を与えています。AI搭載のチャットボットや音声アシスタントは、現在では大手金融機関の標準となっています。また、AIは生体認証にも影響を与えています。さらには、たまに店舗を訪れる人を楽しませるAI案内ロボットなどもあります。
自動化が進む中で、個人的に接する機会が減ることにより顧客との絆が薄れるのではないかと懸念する声があります。しかし、AIの活用が増えることで必ずしも個別の対応ができなくなるということではありません。実際、AIを使用する銀行は、顧客満足度を高め、効率化を進め、多様な方法で顧客ロイヤルティーを確保しています。
金融機関はAIのおかげで、よりパーソナライズされた体験を提供できるようになっています。例えば、機械学習アルゴリズムは消費者個別のデータを分析して異常を検知できます。機械学習モデルでは、顧客ごとにどの取引ツールが使われるかを予測し、顧客が資産について的確な判断を行えるよう、より適したツールをお勧めすることもできます。大手銀行はいずれも、請求支払いのリマインダー、資産計画ツールなど、資産を手軽に確認、管理できるサービスを提供しています。
パーソナライズされたシステムでは、取引データやその他のデータソースを追跡し、各顧客の行動や好みを理解して、より良い体験を提供することが可能です。銀行が顧客の行動を理解してパーソナライズされた体験を提供するために、斬新で創造的な方法を模索した結果、行き着いたのがAIだったと言えます。
会話によって行われる銀行取引では、顧客に金融の情報を伝えるときに、音声やテキストベースのチャットインターフェースインターフェースが使われます。最近の進化した人工知能(AI)と自然言語処理(NLP)の技術を搭載したチャットボットやインテリジェント仮想アシスタントなどの会話型インターフェースは、慣れ親しんだ会話言語で質問をしたり、問い合わせに答えたりするようにプログラムされています。
AI搭載の仮想アシスタントやチャットボットは、銀行取引に関する顧客のシンプルな要望に対応することができます。例えば、顧客のキャッシュフローの中から貯蓄口座に自動的に移動できる資金を見つける、口座に対して通常と異なる操作が行われた場合に通知を送る、資産管理についてその顧客に合った情報提供や助言をするといったことができます。
一部のチャットボットやIPsoftのAmeliaのようなインテリジェントエージェントは、人間のような知能を身に付けられるまでに進化しています。そのため、人生にかかわる決断をしようとしている顧客に対し、心が通じ合っていると感じるような体験を提供することができます。
クオンツヘッジファンドでは、長期的な需要の予測に以前から機械学習が使われていました。
衛星、ソーシャルメディア、ERPシステムなどからデジタルの形で入手できる情報が世界的に増えたことで、金融分野以外でも機械学習を使った需要予測が可能になっています。正確な需要予測があれば、事業は供給を厳密に調整し、途中過程での無駄を減らし、利益を増やすことができます。
ミドルオフィスは、銀行がリスクに対応し、犯罪者から自分たちを守るという役割を担っています。不正検知、マネーロンダリング対策、顧客確認のための身元確認などの業務が行われています。こうした業務では、レガシーなルールベースの不正対策プラットフォームにAIが組み込まれることもあります。
国連の推定によると、1年間にマネーロンダリングされる資金は最大で2兆ドルに上ります。これは、世界のGDPの5%に相当します。マネーロンダリング対策(AML)は、調査件数の多さに加えて、データの複雑さや、人間の介入に頼らざるを得ない状況などがあり、非常に困難な作業となっています。AMLコンプライアンスに費やされるコストは、2015年~2018年で50%以上増大しました。多くの金融組織にとって、不正やマネーロンダリングの防止が課題となっています。人工知能は、不正やマネーロンダリングの検知プロセスを効率化することで、そうした組織の助けとなる可能性があります。AIのツールやシステムはデータの処理や集約を短時間で自動的に行えるので、隠れた不正を迅速に見つけ出せます。
AIは、普通ではないリスクを複数の尺度を使って早期に検知できます。金融機関は、AI搭載システムにより金融取引を自動化することで、市場操作、詐欺、証券市場での異常な売買などの不正に使われる機会を減らすことができます。さらに、効率化、価格変動性の低減、取引コストの削減が可能になり、価格バブルや信用リスクの過小評価などの全体に波及しかねない失敗も防げます。
特に、どの金融機関でも悩みの種となっているのが詐欺行為です。技術がかつてなく進歩し取引量が増えていることが、セキュリティ脅威の増大につながっています。機械学習は、消費のパターン、場所、顧客の行動を分析することで、異常を検知してカード保有者に警告を出すことができます。これは、クレジットカード詐欺の防止に大いに役立ちます。こうした精度の分析を人間が行うのは、大量の取り引きを同時にリアルタイムで分析する必要があることから、まず不可能です。取引履歴や顧客固有のデータに基づいて顧客の行動を評価するのは難しい作業だからです。こうしたデータの多くは非常に複雑であり、銀行では多くの人が詐欺調査のために働いています。そのため、多くの労働力を必要とする作業になっています。アルゴリズムは、特定の行動の疑わしさや普段との違いを判断して、適切に注意喚起を行うことができます。また、さまざまな要素を分析することでユーザー認証を強化することも可能です。システムによって、疑わしい行動への注意喚起をするだけでなく、ユーザーに補足情報を求めたり、あるいは数秒のうちに取り引きを完全に中止したりすることができます。こうした機能を備えることで、銀行は詐欺行為に対し、あとからではなくリアルタイムで対抗措置を取ることができます。
ミドルオフィスに限ってみると、上位100行の銀行が現在AIの活用先として注目しているのは、不正防止やサイバーセキュリティのアプリケーションでのプロセス自動化です。サプライチェーンから銀行内部の中核部まで、AIを活用してプロセスをよりきれいに、よりシームレスにし、リアルタイムで最適化していくことで、コスト削減と成果の拡大が実現されます。
銀行では現在、従来の不正・サイバーセキュリティ脅威検知システムをAIベースのもので強化したり見直したりすることに投資が行われているように見受けられます。この領域でAIへの関心が大きくなっている理由の1つは異常検知です。データセット内の異常値をAIで見つけることにより、銀行は不正行為を、速く、低コストで発見できます。AIシステムによってプロセスを自動化すれば、不正・セキュリティ担当スタッフは、人間のチームだけのときよりも多くの脅威を選別できるようになります。最近のリテール銀行は、新しい顧客の獲得と不正リスクの対策に努めていますが、その一方で、顧客の手間を増やすようなことは極力避けたいと考えています。AIソフトウェアの活用により、より高い精度で、より広範囲にわたって、不正行為を見つけ出すことができます。
AIに関するIT予算の大部分は、コンプライアンスなど、リスク関連の銀行AIアプリケーションに使われています。また、AIベンダーの中では、コンプライアンス関連用途の製品を銀行や金融機関に提供するAIベンダーが全体で2番目に多くの資金を確保しています。
銀行業務のコンプライアンスは、上位100行の多くでは、以前から自動化の取り組みが行われてきた分野です。銀行は、最小限のコストと時間で規制を順守するため、この分野の業務プロセスの自動化に投資してきました。
さらに、EUの一般データ保護規則(GDPR)やバーゼルIVの指令など、新しい規制の変化に適応することも求められています。コンプライアンスを取り巻く状況はどんどんと変わるため、銀行内のコンプライアンス担当者は、該当する規制すべての要件を確実に満たすために、数え切れないほど多くのウェブサイトや規制文書を調べる必要があります。このため、現在ではコンプライアンスリスクの評価と監視のために、自然言語処理をベースとする情報取得ソフトウェアが導入されています。このようなソフトウェアを使うことにより、銀行内のコンプライアンス担当者は、完全に手動で行うときよりも多くの規制データを調べることができます。AIパッケージは、銀行や金融機関が従業員の行動を規制に照らして監視する際にも役立ちます。
アルゴリズムは、大量データの処理と自動化により、大幅な効率化を実現する力を持っています。しかしその一方で、テクノロジー業界全体ではバイアスの問題を見落としがちです。エンジニアの先入観が、構築しているテクノロジーに組み込まれてしまう可能性があります。金融機関では、こうしたバイアスが顧客に大きな損害を与える場合があります。バイアスを生みやすい傾向を業界として是正していくためには、業界に入ってくる人々の性別やダイバーシティを十分に考慮し、各チーム内の多様性に気を配ることが必要です。
AIは、担当者がアルゴリズムの精緻化に熱心であれば、より公平な与信を行うことができるとされています。AIは、融資や信用評価の枠を越えて、銀行がリスクをどのように評価し、管理するのか、またどのように契約を結び、解釈するのかといったことにも影響を与えています。
一部のオンライン融資会社は融資プロセスのスピードアップのためにAIを使っています。金融データや取引データなどから大量の属性を評価して、個人の信用度を数秒で判断しています。こうしたシステムは、ローンの支払いに関する情報を融資会社が入手するたびにそれを学習していきます。つまり、システムに情報が投入されることにより、その知識ベースが進化していきます。
銀行やその他の金融機関は、クレジットカードの返済ができなくなる可能性のある顧客を特定するために以前からAIを使っていました。銀行は、口座や取り引きの詳細、位置情報、銀行との対話記録など、顧客に関して多くの情報を収集しています。AIソフトウェアは、そうした情報に、ソーシャルメディアのデータなどの情報を加えて、各顧客の正確な信用度を導き出すことを可能にします。
信用リスクの検証を自動化することで、ヒューマンエラーのない正確なレポートを得られるため、それを基にリスクへの対策をとることが可能になります。AIは銀行や顧客に、単にリスクを減らす以上の効果をもたらします。AIに過去のリスクの事例を学習させることにより、銀行は問題を予測して、その問題を避けるために早期の対策をとることができます。アルゴリズムはリスク評価の時間を分単位にまで短縮します。その短時間の間に、人間ではまず不可能な大量のデータを分析します。
AIベースの信用評価は、従来の信用評価プロセスよりも高度なルールを活用できます。このため、借り手候補の評価を、速く、正確に行うことができます。さらに、機械は人間の従業員よりも客観性が高いので、テクノロジーを使用することでバイアスを排除できます。どの申込者に債務不履行になるリスクがあり、どの申込者の信用度が高いのかを、大量の信用履歴がなくても判断できます。機械学習モデルは、何度も繰り返し信用評価を行うことにより、間違いを学習し、自ら継続的に進化していきます。これにより、銀行が信頼を置ける、速くて正確な信用評価システムが作られます。
繰り返しの作業や定型的な作業を自動化すれば、その分のリソースやキャパシティを、より良いサービスを顧客に提供することに活用できます。ロボティックプロセスオートメーション(RPA)の活用により、銀行はヒューマンエラーを排除できるだけでなく、より差し迫った課題に対して労働力を再編成することもできます。作業の自動化の例としては、信頼性の高い回答をすばやく消費者に提供するチャットボットの使用の拡大があります。モバイルやウェブ用のAI搭載チャットボットを導入することにより、消費者は適切な回答を速く入手でき、銀行側では人間のアシスタントが質問に答えなくても済むようになります。
RPAによるプロセスの自動化は、金融機関における自動化の重要な原動力となっていますが、現在はそれがコグニティブプロセスオートメーションへと進化しており、AIシステムがさらに複雑なオートメーションを行えるようになりつつあります。
AIの影響への意識が高まり、それに関連する情報も増えてきたことから、保険業界もAIの使用とその可能性を信用し始めています。
保険業界は、スマートフォン、政府統計、ソーシャルメディア、銀行などのさまざまなソースから収集したデータを大量に保有しています。こうしたソースから集まったデータを分析することによって、保険会社は顧客の行動や嗜好を理解することができています。AIの持つデータに基づいた根拠から結論を導く能力により、このデータのほとんどがAIによって保存、活用、分析されます。
保険会社はAI活用技術への投資から多くの効果を得ています。例えば、幹部レベルの作業スケジュールを自動作成するだけでなく、保険外交員の的確な意思決定と異論の出ない判断を支援することによってサービス品質を高めるといったことも行われています。
多くの保険ソリューションプロバイダーは、既存ソリューションをより良く、よりインテリジェントに、より高速化するためにAI技術を組み込むことを計画しています。ソリューションプロバイダーは大量の過去データを持っており、それを基に、リスク管理やコスト抑制に効果を発揮する優れた予測モデルを構築することができます。
また、ソリューションプロバイダーは、保険金請求の従来の管理方法を置き換えるため、さらに新しいソリューションの作成も検討しています。
保険業界では、AIが以前から多くの面で使用されていますが、その可能性は現在さらに広がっています。保険業界のAIは、保険金請求管理プロセスを大きく変え、その高速化、機能強化、エラー削減を実現してきました。現在では、AIによるリスクモデルの改善が行われています。また、スマートチャットボットやインテリジェントエージェントは、機械学習技術を使って、迅速なカスタマーサービスを年中無休で提供しています。
高度な分析機能とビッグデータの評価機能により、保険会社は情報に基づいて顧客ごとにカスタマイズしたサービスを提供できます。また、予測の有効活用、業務プロセスの最適化、コストの削減、そしてより良いリスク管理戦略の策定も可能になります。
保険業界の中にも、AIのパイオニア層と出遅れ層が存在します。保険金請求管理プロセスの一部を早くから自動化していた企業では、処理時間の大幅な短縮とコスト削減、サービス品質の向上が実現されています。
AIにより、保険業界では驚くような新しい機能や体験が登場しています。
近い将来に、自分専用の保険プランが提供され、すぐに支援を得られ、保険金請求が数秒で処理されるといったことが現実になるかもしれません。
人工知能は保険分野に多くの可能性をもたらします。例えば、顧客との関係の強化、従業員の効率性の向上、詐欺行為の防止などがあります。また、規制要件への対応や、より現実のリスクに即した保険料モデルの構築が容易になります。さらには、まったく新しいことを対象としたサービスや保険が生まれる可能性もあります。
保険サービスは、人間の健康や生活のニーズに対して柔軟でなければなりません。データの存在により、顧客を詳しく理解して、その顧客に合わせてサービスをカスタマイズすることが可能になっています。
データ分析とAIにより、保険加入者ごとに料金を計算して提示することができます。保険会社は、被保険者の運転の癖に関するデータを収集して分析することもできます。具体的に説明すると、まず、車両からの情報をクラウドに送ります。このデータをアルゴリズムで分析して、運転時の行動を判定し、プロファイルを構築します。さらに、レコメンデーションエンジンが運転手のスマートフォン上のアプリを通じてアドバイスを送ります。運転手は、アドバイスに従って安全運転をすることにより、自動車保険の割り引きを受けられます。
AIによる最適化によって、従業員のスケジュールを自動作成し、合理化できます。これにより、従業員は付加価値の高い作業に注力でき、顧客は保険金の請求が速く処理されるというメリットを得られます。一部の単純なケースは、インテリジェントエージェントやチャットボットで自動化できます。複雑なケースの場合は、いくつかの階層をエスカレーションして処理を進めます。外交員は時間を節約でき、その分の時間をより専門的で人間の介入が必要とされる仕事に使うことができます。
パラメトリック保険は、気象指標や衛星データに基づいてリスクを推定、管理する保険です。例えば、台風などの事象について対象とするパラメーターを決めておき、その事象が発生したときは、パラメーターに基づいて補償を行います。専門の担当者が現地調査に出向く必要がなくなります。これは、補償額の提示に数カ月あるいは1年以上かかるのが通常の保険業界では革命的です。衛星データなど、信頼できる第三者からのデータを基準にすることにより、推定されるリスクに極めて公平な金額を設定できます。これにより、保険金額がなかなか合意されないなどの問題も避けられます。
顧客確認(Know Your Customer)に十分な対策をとる必要があります。銀行や保険会社は、規制により、契約時だけでなく、ビジネス上の関係が続く全期間にわたって顧客の身元を把握し続けることが求められています。これは、詐欺行為への対抗を目的としたものですが、テロ資金供与やマネーロンダリングに、たとえ間接的であっても加担しないための対策でもあります。
銀行・金融サービス・保険の分野の中で、保険業界は技術イノベーションの導入が特に遅い業界の1つでした。しかし、現在は急速な変化が起きています。以下に挙げるような技術イノベーションによって、従来のビジネスモデルを破壊するような変革が始まっています。
インテリジェントな保険の分野が新たに登場することが考えられます。IoTセンサーの設置とデータ収集を専門とする会社が保険会社と協力することにより、新しいビジネスエコシステムが形成されます。業界全体としては、事後対応的な純粋な保険から、予防的にリスクを最小化するプラットフォームへとシフトすることが予想されます。
保険会社は現在、以下のような点への対応について大きな課題と懸念を抱えています。
ロボティックプロセスオートメーション(RPA)は、ルールベースのビジネスロジックによって制御される技術応用の1つで、ビジネスプロセスを自動化します。流通管理、補償、契約管理などの管理プロセスの自動化に関して、保険会社は、全社的なサービスやソリューションの提供を改善するさらに良い方法がないかを常に考えています。案件作成や引き受けは自動化できる可能性があります。これにより、従業員は毎日大量のファイルを処理しなくても済むようになり、プロセスのスピードアップとヒューマンエラーの排除も実現されます。このほかにRPAを使って自動化が進められているプロセスとしては、スプレッドシートへのデータのコピー&ペースト、アプリケーションへのログイン、データベース間でのデータ転送、メールのチェックと処理などがあります。
保険金請求処理とサポートの自動化: AIとエンドツーエンドの自動化は、保険金請求処理の自動化、特に損害保険と従業員福利厚生保険での自動化に使われています。システムが損害査定人を割り当て、さまざまな請求情報を統合し、保険金が早く支払われるように処理を促進します。
現在、保険金請求の処理は複数の従業員によって行われていますが、これがAIベースのチャットボットやインテリジェントエージェントを実装することによって改善できます。人工知能を活用するタッチレスな保険金請求処理プロセスは、保険金請求の報告、被害状況の確認、システムへの入力、顧客への連絡をすべて実行でき、膨大な人間の作業を排除します。
AI搭載チャットボットは、保険金請求の内容を精査し、契約の詳細を確認し、請求を不正検知アルゴリズムに通して検査してから、保険金の支払いのために銀行に指示を送ります。標準的な書類のある保険金請求の場合、うまくいけば、このように人手の作業を減らして、ボットで審査ができます。保険会社では労働力を節約でき、顧客は迅速な支援を受けられます。さらに、AIを活用した保険金請求サポートシステムの自動化により、請求用報告書内のデータのパターンを特定することで、保険会社は不正請求の被害を防止し、ヒューマンエラーとその結果として生じる不正確さを排除できます。
パーソナライズされた体験: AIは、顧客の要件に関係しそうなデータをすべて収集し、それを分析して、その顧客に最適なプランを作成します。定量的、定性的の両方のデータセットにAIを活用することにより、保険会社や保険数理士が顧客ごとに専用の商品を開発して顧客の獲得につなげることもできます。
顧客の細分化: AIアルゴリズムは、資産状況、年齢、住所、行動、好みなどに基づいて顧客を細分化できます。この細分化に基づいて、ソリューションを導き出し、該当する顧客に提供します。また、特定の顧客層を対象にして、保険契約のクロスセルを行ったり、個別のサービスを提供したりすることもできます。
リスクの評価と管理: リスク評価には、リスクを数量化することと、リスクの理由を特定することが含まれます。リスク評価ツールを実装することにより、リスクを確実に予測できるようになるだけでなく、大きな損害を避けるためにリスクを最小限に抑えることも可能になります。アルゴリズムはリスクを検出し、性質や影響の異なる個々のリスクに関するデータを統合します。これにより、細分化されたグループごとのリスクを予測することができ、結果として会社全体としてのリスクも予測可能になります。
保険会社は大量のデータと、散在する多数の管理部門に取り囲まれていますが、このような状態は今に始まったことではありません。保険会社は、従業員に関してだけでなく、さまざまな点においてタスク管理を構造化しています。これが、エンドツーエンドの情報管理システムの品質を高めることにつながっています。
AIのデータ処理機能を活用することにより、ビジネスと顧客対応に関する情報が部門間で寸断されることなく共通のプラットフォーム上を流れる高度な環境を戦略的に構築できます。
不正の検知と調査: 保険会社は詐欺行為から大きな金銭的被害を受けています。このため、データを使って正確に結果を予測するためにAIアルゴリズムを導入しようとしています。
AIアルゴリズムを通すことによって、これまでは検知されなかった疑わしい行動を見つけ出し、詐欺行為を発見することができます。複数の技法を使うデータサイエンスによって、詐欺行為を適時に発見し、大きな被害が発生するのを防ぎます。損害査定の迅速化、異常な請求の発見、不正検知の強化、失効した契約の特定によって、会社全体の効率化が可能になります。
AIチャットボットは、自律型の社内カスタマーサービスエージェントとして機能し、顧客からの問い合わせに答えることができます。チャットボットは顧客からよく尋ねられる質問を常に記録しています。
チャットボットは、保険契約者の住所変更、受取人の追加など、定型的な作業の多くを効率的に実行できます。チャットボットが単純作業を引き受けることで、スキルのある人間のアドバイザーは、人間が最も得意とする助言などの仕事に時間を使えるようになります。AI搭載のチャットボットは顧客との会話からニーズを特定し、その顧客に最も適した保険を提案できます。さらに、顧客のニーズによっては、クロスセル商品を勧めることもできます。顧客は、質問があれば人間のアドバイザーに戻って加入手続きを進めることができます。
保険に関する文書は長く、契約内容は複雑で、細々とした指示がたくさんあります。顧客は、恐怖症になるほどの混乱をきたし、保険を契約しようとする意欲がなくなってしまうこともしばしばです。顧客は、スムーズな手続きと丁寧な説明をしてくれる、人間のような対応を求めています。多くのインテリジェントチャットボットは、保険外交員以上の能力を持つ仮想アシスタントとして、顧客のデバイス上のメッセージングアプリ内でサービスを提供します。Ameliaのような一部の高度なエージェントは、自然言語処理と感情分析が可能であり、顧客の反応を評価して、それに応じて問題を解決できます。
顧客は、さまざまな保険についての困り事を文字入力や音声で伝えられます。チャットボットはそれを処理して、その顧客に合った回答を示してくれます。チャットボットは、保険金請求に関する基本的な質問への対応などだけでなく、商品の提案、販売促進、リード創出、顧客維持など多くのことに貢献できる可能性があります。このようなボットはソーシャルメディアなどのデジタル情報を統合して、保険の見積もりから、契約内容の説明、加入までを案内します。
IoTと追跡装置により有用なデータが爆発的に増え、これを活用することによって保険料の決定プロセスを公正に調整することが可能になっています。人間の健康状態や車両を追跡するシステムにより、医療保険と自動車保険の分野では、保険料の決定方法を賢く制御できる、動的でインテリジェントな引受アルゴリズムが登場してきています。
人工知能を使用することで、引受プロセスと定型的な問い合わせや調査にかかる時間とリソースを大幅に節約し、さらに、そうしたプロセスを自動化することができます。保険ボットは顧客の経済的および社会的なプロファイル全般を自動で探索し、生活パターン、ライフスタイル、リスク要因、経済的安定性を判断します。経済的に規則正しい習慣を持つ顧客の場合、低い保険料で安心を得る資格があると認められます。
AIは収集したデータを厳しく精査することも得意です。関係するリスク量を予測し、詐欺の被害から会社を守り、適正な保険金を顧客に提供できます。
現在、AIソリューションを導入している多くのビジネス分野においてインテリジェントサービスの核となっているのは、おそらく機械学習による予測分析です。保険会社は、予測分析のリスク予測とリスク管理の能力を活用しています。アクセスできる情報が増えれば増えるほど、リスクを評価する能力は高くなります。
機械学習は日常的に、テレマティクスを使う分野における引受リスク予測モデルの構築で、分析に使用されます。つまり、車両や住宅など、さまざまな場所にあるセンサーからのデータの分析に、AIと機械学習が広く使用されます。
使用可能なデータを使って結論を導く方法をAIに学習させることにより、処理すべきデータが大量であっても、反応速度の速さを期待できます。
これは、将来を見通し、起こりうる結果を予測する手段となります。分析エンジンは顧客の行動を深く分析して顧客がこのあと何をするのかを予測できます。継続的にデータが入ってくることにより、データの蓄積が増え、より正確な状況を予測するために分析で使用できるポイントが大幅に増えていきます。
保険会社が所有している被保険者のデータのほかに、構造化データとしてセンサーやウエアラブるデバイスなどのIoTデバイスから収集されたデータがあります。非構造化データとしては、ソーシャルメディアのページや検索エンジンなどの公開されている領域から収集されたデータがあります。こうしたデータを分析することにより、収益の確保に役立つ情報だけでなく、真の競争力につながる情報も得られます。
医療保険会社は、顧客の健康維持を推奨することに着目した、見返りのある先制的医療を考案しています。人が健康を維持していれば、保険会社は保険金支払いやその管理プロセスに投資をする必要はありません。スタートアップもAI特有の能力を活用して大量の保険金請求データと保険パターンを解析し、健康のリスクが現実になる前に、個人レベルでリスクに対する予防策が取れるようにすることをめざしています。予測分析ソフトウェアを使用することにより、データポイント間の相関関係の特定に要する時間を秒単位まで短縮できます。
保険会社は守備範囲を広げ、顧客獲得数を増やしたいと考えています。競争市場にいる保険会社は、従来の勧誘電話による方法ではなく、より効果的なマーケティング戦略を活用する必要があります。保険業界の予測分析、自然言語処理、AIの力を連携させることにより、外交員は顧客や見込み客のすべてのプロファイルを利用できるようになります。こうしたデータをさらに分析することで、賢明な見解や、顧客の好みの正確な予測、さらには具体的にどの商品やサービスを営業対象に含めるべきかといった情報を得られます。
例として、Pepperのようなより人間に近いロボットや、IPsoftのAmeliaのような認識エージェントなど、リテール銀行の支店の未来を垣間見ることができる製品があります。
顧客の全体をひと目で把握できる機能があれば、ばらばらの点を線で結び、以前は気付けなかったような顧客のニーズを予測することができます。
機械学習は、ニュースやソーシャルメディアなどの情報ソースを分析して、人間の社会的要因が市場に与える影響を予測します。こうした鍵となる要因は、多くの人が思うよりも市場に大きな影響を及ぼします。市場のハードデータに加えてこれらの要因を織り込める機械学習の能力は、将来の取り引きに驚くような影響を与えると考えられます。
消費者銀行においては、データサイエンスを用いて、実社会の問題を解決したり、AIアプリケーションのコストと利益を評価する方法について明確な助言をしたりすることが必須です。データサイエンスとビジネス知識の連携が鍵となり、消費者銀行は最終的に、双方に精通した人材を育てる必要があります。ビジネスとテクノロジーの両分野を大胆に行き来きできる人が勝者となるでしょう。
今や、AIは組織の単なる飾りではなく、組織のまさに中核である神経系統と言えるまでになっています。売り上げの拡大から、リスクの管理、顧客体験の改善、イノベーションの推進、コストの削減まで、AIが銀行を支援できる潜在能力は多岐にわたり、無視できません。消費者銀行では、AIファーストのビジネスモデルという観点から考えるときが来ています。
保険業界は、保険業界におけるAIの可能性を楽観的に見ています。今後10年での急速な技術の進化は、保険業界に破壊的な変革を起こすでしょう。保険会社は、単なる顧客体験以上のものを提供できるように、AIを導入する戦略を全社レベルで練る必要があります。
保険金請求管理の自動化の初期段階として、保険会社は画像認識を導入し、そのあと保険金の支払いや不正検知を自動化していきます。さらに、既存の各種ワークフローをスマートに自動化することによって、保険金請求の管理や監視に要する時間とリソースを節約し、プロセスを効率化し、より良い体験を顧客に提供します。
新しいAIツールを使って継続的に保険金請求管理を改善していけば、よりスマートな不正検知、より速い支払い、より良いカスタマーサービスといった効果が得られるでしょう。
保険会社は、技術を導入することによって、まったく新しいタイプの商品の開発、膨大なデータポイントの認識学習によって得られる情報の活用、プロセスの合理化が可能になります。もっと重要な点として、顧客体験全体を個人に合わせて変えるといったことも可能になります。
この分野において確実に言えるのは、物事が常に変化しているということです。企業家は買収も視野にスタートアップと協力する一方で、この変化を常に意識することが必要になるでしょう。デジタルバンキング市場は、急速に進化する技術の活用と、AIなどのスマート技術の導入により、改善が期待されています。ヒューマンエラーを減らし、不正を防止し、ユーザー体験の全体をより良くしてくれる、わくわくするような新しいイノベーションが登場するでしょう。
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