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カーボンニュートラルお悩み相談室 【金融機関向け】GHG排出量算定に初めてトライします。専門知識や人手が不足していても算定作業をスムーズに進められる方法や体制を教えてください

カーボンニュートラルお悩み相談室は、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)に関するお悩み・お困りごとに、専門家がアドバイスをするQ&Aコンテンツです。回答を通じて皆さまの脱炭素経営をバックアップします。

  • 今年からサスティナビリティ担当になった入社2年目の可児 裕(かにゆう)・通称「か~にゅ~」が、皆さまのアシスタントとして疑問・質問を一緒に解決します!

今回は、金融機関のGHG排出量算定に関する疑問をご紹介します。回答するのは日立システムズの田熊なつ子です。

  • 田熊なつ子
  • 今回の回答者

    株式会社日立システムズ
    金融DX事業部 第一本部
    プロセスマイニングサービス部 第2グループ
    技師 田熊 なつ子

GHG排出量算定に初めてトライします。専門知識や人手が不足していても算定作業をスムーズに進められる方法や体制を教えてください

読者からのお悩み:

地方銀行に勤めています。当社では来年度からファイナンスド・エミッション(投融資に係る温室効果ガス排出量)を含む、自社の温室効果ガス(GHG)排出量の算定を行うことになりました。私は算定プロジェクトのリーダーに選ばれたのですが、専門知識がない、人手もあまり割けないという状態で、プロジェクトを円滑に進めていけるかとても不安です。算定作業をコンサルティング会社にアウトソースすることも検討していますが、その場合、算定のたびに外注費がかかることを上司は懸念しています。知識不足、工数不足の中で算定作業を円滑に進める方法や体制があれば教えてください。
(地方銀行・Aさん)

か~にゅ~:

今回は金融業の方からご質問をいただきました。先生、最初に教えてほしいのですが、質問にあるファイナンスド・エミッションとは一体何ですか?

田熊:

ファイナンスド・エミッションとは、金融機関が行う投資や融資に係るGHG排出量のことを指します。

金融機関は自社が直接排出するGHGよりも、投融資先の企業を通じて間接的に排出するGHGの方が圧倒的に大きくなります。この間接的な環境負荷の影響を把握するために、ファイナンスド・エミッションの算定が必要になるわけです。GHGプロトコルでは、Scope3カテゴリ15「投資」の分類にあたります。

金融業界は、ファイナンスド・エミッションの算定に関して、業界全体で統一されたわかりやすい算定基準を作るため、2015年にPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)という組織を作りました。この組織が定める算定基準はPCAFスタンダードと呼ばれており、ファイナンスド・エミッションの算定に関する金融業界のスタンダードになりつつあります。金融業界でGHG排出量算定を行う場合、ここは必ず押さえなければいけないポイントです。

か~にゅ~:

質問者さんは初めての算定作業ということで、プロジェクトの推進体制や進め方に不安を抱えていらっしゃるようです。先生、何か良いアドバイスをお願いします。

田熊:

わかりました。質問者さんは算定作業における「知識不足」「工数不足」「コスト」についての不安を挙げていらっしゃるので、そういった面をクリアできる推進体制を提案したいと思います。

外部パートナー企業を利用して知識・ノウハウを吸収しつつ、将来的には自社単独でGHG排出量算定が行えるよう算定作業の効率化を進めるべき

田熊:

質問者さまのケースに関しては、専門知識を持つ外部パートナー企業を利用しながら、将来的に自社単独でGHG排出量算定ができるよう算定作業の効率化を進めるのが良いのではないかと思います。具体的には、取り組み初期の知識不足は外部パートナー企業を利用することで補い、工数不足は算定作業の効率化により補うわけです。順番に説明していきましょう。

か~にゅ~:

お願いします!

田熊:

GHG排出量算定の作業では、算定範囲の決定、算定に用いるデータや計算式の決定、データが入手できない場合の代替データの選定や妥当性の検証など、専門知識を必要するタスクが数多く発生します。知識ゼロの状態からこれらの作業を進めるのはかなりの負担になりますが、専門知識を持つ外部パートナーの支援を得ることで、GHG排出量算定の流れやポイント、自社に不足している知識・ノウハウを短期間で把握、吸収することができます。

GHG排出量算定は立ち上げ期こそ大きな負担がかかりますが、一度しっかりとした業務フローを構築し、必要な帳票類を整備することで、次年度の算定作業の負担を軽減することができます。外部パートナー企業を選定する際、「将来的に自社単独で算定できるよう、必要な知識・ノウハウも提供してほしい」というオーダーを出しておけば、GHG排出量算定と同時に、自社単独で算定を行うための体制作りを進めることができます。GHG排出量算定は直接的な利益を生み出す取り組みではないので、上司の方が懸念されているように、外部パートナー企業への外注費などはできる限り抑えておきたいものです。

か~にゅ~:

なるほど、自社の状況に合わせて外部パートナー企業の支援を受けながら、必要な知識・ノウハウを自社に取り込むというわけですね。

田熊:

ちなみに、日立システムズもGHG排出量算定プロジェクトの立ち上げ支援をはじめ、さまざまな脱炭素関連のコンサルティングを提供しています。外部パートナー企業の一つとして考えてもらえると嬉しいですね。

工数不足の問題は、算定作業を効率化する
GHG排出量算定・可視化システムの利用で補う

田熊:

人手が足りず工数不足の問題を解決できない場合には、算定作業の効率化が必要です。そんな時にぜひ活用したいのが算定作業を効率化するツールです。GHG排出量算定や可視化を支援するシステムには下記のようなメリットがあり、算定作業の工数削減に貢献してくれます。

メリット1:常に最新のデータセットが取り扱える

GHG排出量を求める計算式や排出原単位(排出係数)は、頻繁に新しいデータに更新されます。GHG排出量算定・可視化システムは、常に最新のデータセットをシステムに取り込むため、最新のデータを確認する手間を省くだけでなく、誤った計算式や排出原単位を使用してしまうミスを減らし、工数削減に貢献します。

メリット2:社内外からのデータ収集がしやすい

Scope3のGHG排出量算定を行う場合、社内の各部署や子会社、関連会社、サプライチェーンに属する取引先企業などから、GHG排出量算定に使用するデータを収集する必要があります。GHG排出量算定・可視化システムの中には、クラウド経由で簡単に関係者からデータ収集ができる機能を持つ製品もあるので、そういった製品を利用すればScope3のGHG排出量算定を効率的に行えます。

メリット3:可視化・分析・シミュレーションが行える

GHG排出量算定の取り組みがある程度定着すると、今度は「いかにしてGHG排出量を削減するか?」という視点に切り替わります。その時に大きな効果を発揮するのが可視化・分析・シミュレーション機能です。システムを使い、GHG排出量が多いScopeやカテゴリを視覚的に明らかにすることで、削減手段の検討がスムーズになります。ダッシュボード機能やシミュレーション機能を活用すれば、報告書や分析レポートの作成が効率化し、工数の削減が期待できるでしょう。

財務諸表の作成に財務会計システムを利用するように、GHG排出量算定に特化したシステムを利用することで算定作業を効率化することができます。GHG排出量算定・可視化システムのメリットは、別の記事でも取り上げていますので、そちらもあわせてご覧ください。

金融機関は、金融機関の特性やニーズにフィットした
GHG排出量算定・可視化システムを選定すべき

田熊:

金融機関のGHG排出量算定に関しては、冒頭で紹介したファイナンスド・エミッションの算定や、PCAFスダンダードへの対応が重要になります。加えて、GHG排出量算定の後に行う、排出量削減の取り組みにおいても金融機関ならではの特性があります。それは、自社のGHG排出量の大部分を投融資先の排出量が占めているので、自社の排出量を削減するには、投融資先の排出量を削減しなければならない点です。

金融機関がGHG排出量算定・可視化システムの導入を検討する際には、このような金融機関の特性に対応したものを選ぶべきです。参考として、日立システムズが取り扱う炭素会計ツール「Persefoni(パーセフォニ)」を紹介したいと思います。

Persefoniは、金融機関のGHG排出量算定・削減を支援する機能を豊富に有しています。Persefoniの開発を行う米国Persefoni AI, Inc.は、PCAFの認定SaaSベンダーであり、信頼の置ける開発ベンダーです。Persefoniの代表的な機能を紹介しましょう。

機能1:PCAFスタンダードに準拠した排出量算定が行える

Persefoniは、PCAFスタンダードに準拠した算定方式や各種排出係数をシステムに内包しています。常に最新の算定方式や排出係数で算定が行えるため、間違った算定方式、古い排出係数で計算をしてしまうといったミスを防ぐことができます。

機能2:多数の投融資先のGHG算定を一括して行える

Persefoniは、多数の投融資先のGHG排出量算定を一括して行うことができます。さらに、投融資先の活動データから、PCAFが区分する6つのアセットクラス(上場株式・社債、事業融資・非上場株式、プロジェクトファイナンス、商業用不動産、住宅ローン、自動車ローン)のGHG排出量を算定するので、作業が大幅に効率化します。

機能3:データリクエスト機能により投融資先からのデータが集めやすい

Persefoniは、投融資先に対してGHG排出量算定に必要なデータをリクエストすることができます。この機能は投融資先がPersefoniのユーザーでなくても利用できます。メールベースでの調査依頼書のやり取りと違い、Webブラウザから排出量を登録してもらうことで簡単にデータが収集でき、算定作業がスムーズに進みます。

機能4:多様な分析・可視化を通じて投融資先の評価ができる

Persefoniは、売上炭素強度やWACIなど、金融機関が一般的に使用している指標を用いて投融資先の排出状況を比較しやすくするモジュールを提供しています。これらの機能を利用することで、投融資先のサスティナビリティを評価し、投融資によるリスクや機会を適切に管理することができます。(※本機能は開発途中の機能です)

機能5:投融資先の排出量削減に向けたプランニングが行える

Persefoniは排出量算定だけでなく、排出量の削減目標達成に向けた施策をプランニングする機能を提供しています。この機能を活用することで、金融機関は投融資先の排出量削減を支援することができます。支援活動を通じて、自社のScope3カテゴリ15の排出量削減が期待できるだけでなく、投融資先との関係強化を図ることができます。(※本機能はオプション機能です)

脱炭素化に向けて大きく動き出した金融業界。
「Persefoni」は日本の金融機関でも導入が進んでいる

か~にゅ~:

Persefoniは金融機関向けの機能が充実しているんですね。開発元がPCAFの認定SaaSベンダーであるという点にも安心感があります。

田熊:

Persefoniは世界有数の資産運用会社、機関投資家、銀行などに多数導入されており、日本企業での導入も進んでいます。先日は、東北地方に根差し新しい価値を育む広域金融グループであるフィデアホールディングス株式会社様(以下、フィデアHD様)がPersefoniを導入しました。

フィデアHD様は、限られた人員で自社や投融資先のGHG排出量算定をいかに効率化するかを課題としていました。日立システムズはPersefoniの導入支援から算定、排出量削減までのトータルサポートを行うことで、フィデアHD様の課題解決を支援していきます。

フィデアHD様のPersefoni導入については、下記のニュースリリースで詳しくお知らせしています。こちらもご覧ください。

* 日立システムズ調べ

か~にゅ~:

田熊先生、今回も勉強になりました。金融業界は脱炭素化に向けて大きく動き出しているんですね。

田熊:

そうですね。ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)は、2023年6月に「サスティナビリティ開示基準」としてScope1、Scope2に加えてサプライチェーン全体のScope3を含めることを最終確定しました。これにより、日本でも2026年4月までに有価証券報告書へScope1からScope3を記載することが義務化される見込みとなりました。

これに対応するため、メガバンクや地方銀行の多くは炭素会計への対応を急ピッチで進めています。炭素会計への対応をはじめとする脱炭素化の動きは、今後信用金庫などにも広がっていく可能性があるため、金融業界の皆さまは動向を注視する必要があると思います。

か~にゅ~:

田熊先生、わかりやすいご説明ありがとうございました!今回の学びを最後にまとめておきます。

今回の学び

  • メガバンクや地方銀行は、PCAFスタンダードに準拠したファイナンスド・エミッションの算定が求められている。
  • GHG排出量算定に必要な知識・ノウハウは、適切な外部パートナー企業を利用することで短期間に吸収することができる。
  • 金融機関のGHG排出量算定・削減の取り組みには他の業界にはない特性がある。GHG排出量算定・可視化システムを選定する際には、金融機関の特性やニーズにフィットしたシステムを選ぶべき。
  • 金融機関に対する脱炭素化の社会的要請はますます強まっている。金融機関は今後も脱炭素化を巡る社会・金融業界の動向に注視する必要がある。
か~にゅ~:

脱炭素経営の実現に向けて、これからもたくさんの質問にお答えします。次回もお楽しみに!

お知らせ

日立システムズは、本記事でご紹介した炭素会計プラットフォームサービス「Persefoni(パーセフォニ)」を提供しています。Persefoniを活用したGHG排出量算定・可視化にご興味のある方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

炭素会計プラットフォームサービス「Persefoni(パーセフォニ)」Webサイト

カーボンニュートラルお悩み相談室では、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)、脱炭素経営に関する読者の皆さまからの疑問や質問を募集しています。お悩みは下記フォームよりお気軽にお寄せください。

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