カーボンニュートラルお悩み相談室は、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)に関するお悩み・お困りごとに、専門家がアドバイスをするQ&Aコンテンツです。回答を通じて皆さまの脱炭素経営をバックアップします。
今年からサスティナビリティ担当になった入社2年目の可児 裕(かにゆう)・通称「か~にゅ~」が、皆さまのアシスタントとして疑問・質問を一緒に解決します!
今回は、ISSB(International Sustainability Standards Board)が公表したサステナビリティ情報開示基準「ISSB基準」に関する疑問をご紹介します。回答するのは日立システムズの田熊です。
株式会社日立システムズ
金融DX事業部 第一本部
プロセスマイニングサービス部 第2グループ
技師 田熊 なつ子
* 本記事は2024年2月26日時点の情報に基づいて執筆されています。時間の経過とともに情報が変化する可能性がありますので、読者の皆さまは最新の情報を確認していただくようお願い申し上げます。
ISSBが企業に対してScope3の排出量開示を求める「IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)」を公表したと聞きました。ISSBとは一体どんな団体ですか?ISSB基準は日本企業にどんな影響を与えるでしょうか?
(総合商社・Aさん)
今回はサステナビリティ情報開示基準についての質問をいただきました。先生、基本中の基本かもしれませんが、そもそもサステナビリティ情報開示基準とは何なのか?というところから教えていただけるとうれしいです……。
わかりました!一緒に勉強していきましょう。
近年、企業評価をする際に、財務諸表だけでなく、その企業が環境に与えている影響や、社会的な責任をどう果たしているかなど、持続可能性の面での貢献についても評価すべき、という考え方が一般的になりました。
そのような社会の変化に対して、主に上場企業が中心になって自社の持続可能性の取り組みを情報開示する動きが始まりました。投資家たちはこれを歓迎しましたが、各企業がバラバラのやり方で情報開示を行うと企業間の比較ができません。そこで、持続可能性の開示について統一のルール・枠組みを作ろう、という動きが起こりました。このルール・枠組みのことを一般的にサステナビリティ情報開示基準と呼びます。持続可能性の概念としてESG(Environmental、Social、Governance)がありますが、サステナビリティ情報開示基準はそれに関連しています。
サステナビリティ情報開示基準はいろいろな団体・組織が提供していて、代表的な基準としては「GRIスタンダード」「SASBスタンダード」「TCFD提言」「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」「国際統合報告フレームワーク」といったものがあります。日本では経済産業省が「価値協創ガイダンス」というものを提供していますね。
今挙げていただいたサステナビリティ情報開示基準はそれぞれ何が違うんでしょうか?ルール・枠組みがこんなにあると逆に混乱してしまうような……。
いいところに気が付きましたね。さまざまなルール・枠組みができた結果、か~にゅ~君のように「それぞれの開示基準はどこがどう違うのか?」「自社はどの開示基準を選ぶべきなのか?」という悩みが生まれました。このような状況がISSBが設立されたひとつの背景になっています。
先生、そのISSBとは一体どんな団体なんでしょうか。
ISSBは、IFRS財団の傘下組織になります。か~にゅ~君は、「国際会計基準」もしくは「イファース」という単語を聞いたことがありませんか?
あ、聞いたことがあります!国際会計基準は主にグローバル企業が採用している会計基準のことですよね。
正解です。IFRS財団は国際会計基準を作り、これをグローバルスタンダードとして定着させた組織です。IFRS財団は、サステナビリティ報告の標準化を求める要望の高まりを受けて、グローバルベースラインとなる基準の開発を行うことにしました。IFRS財団は基準の開発にあたり、GRIやTCFDなど各国の規制当局とも協力することとし、その結果、2021年にISSBの設立が公表されたのです。
なるほど。そのような流れが背景にあるのですね。
ISSBは2023年6月にサステナビリティ情報開示基準となる「IFRSサステナビリティ開示基準(IFRS S1号及びIFRS S2号)」(以下、ISSB基準とする)を発表しました。
注目すべきはGHG排出量の情報開示についての基準です。ISSB基準は、GHG排出量について、Scope1、Scope2に加えてScope3の開示を企業に対して要求しています。Scope3の排出量開示については、適用初年度における開示を免除するなどの救済措置が用意されていますが、いずれにしろGHG排出量の開示義務が明記されることになりました。
ISSB基準が発表されたことで、日本企業にはどんな影響がありますか?
現在日本では、公益財団法人財務会計基準機構(FASF)が傘下にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)を設立して、ISSB基準に対する意見表明や、ISSB基準に相当する日本版基準の開発を進めているところです。
SSBJは今後のスケジュール目標として、2023年度中(遅くとも2024年3月31日まで)に日本版基準の公開草案を公表、2024年度中(遅くとも2025年3月31日まで)に日本版基準の確定基準を公表すると発表しています。
目標どおりに進行した場合、ISSB基準の日本版は遅くとも2025年4月1日以降に開始する事業年度からの早期適用が可能となる予定です。つまり、3月決算の上場企業の場合、2026年3月期の有価証券報告書からISSB基準の日本版にのっとった開示が可能となる予定です。
先ほども説明しましたが、ISSBは適用初年度におけるScope3の開示を免除するなど、ISSB基準への段階的な適用を容認する姿勢を取っています。日本版基準においても同等の救済措置が取られる可能性はありますが、救済措置の有無、詳細については日本版基準の公開後に改めて確認する必要があります。
上場企業にとっては日本版基準が自社のGHG排出量算定の取り組みに大きな影響を与えるので、今まさに多くの企業がSSBJの動向を注視しているところだと思います。
では、上場していない企業に関しては、ISSB基準に関してそこまで気にしなくてもよい、ということでしょうか?
いいえ、そうとは限りません。仮に上場企業がISSB基準に対応するためScope3排出量算定に取り組むことになれば、その取引先企業は上場/非上場に関わらずScope3対象になるため、排出量算定が必要になります。今後、上場企業が調達先を選定する際に、GHG排出量算定や削減への取り組みを評価するようなケースも出てくるかもしれません。非上場企業であっても、上場企業のサプライチェーンに属してビジネスを展開している企業は、GHG排出量算定や削減の取り組みを意識しておく必要があると考えます。
それ以外にも、SSBJのGHG開示要求のScope1、Scope2のバウンダリは「財務連結とイコール」を基本としているため、上場企業のグループ会社は非上場であっても排出量算定が義務付けられます。
なるほど、ISSB基準は非上場企業も意識しておくべきものなんですね。先生、今回も大変勉強になりました!最後にポイントをまとめておきます。
脱炭素経営の実現に向けて、これからもたくさんの質問にお答えします。次回もお楽しみに!
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