カーボンニュートラルお悩み相談室は、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)に関するお悩み・お困りごとに、専門家がアドバイスをするQ&Aコンテンツです。回答を通じて皆さまの脱炭素経営をバックアップします。
今年からサスティナビリティ担当になった入社2年目の可児 裕(かにゆう)・通称「か~にゅ~」が、皆さまのアシスタントとして疑問・質問を一緒に解決します!
今回は、Scope3のCO2排出量削減に関するお悩みをご紹介します。回答するのは日立システムズの田熊なつ子です。
株式会社日立システムズ
金融DX事業部 第一本部 プロセスマイニングサービス部 第二グループ
技師 田熊なつ子
* カーボンニュートラルお悩み相談室では、読者の皆さまからの疑問・質問を募集しています。詳しくは本記事の最後をご覧ください。
カーボンニュートラルの達成に向けて、Scope3のCO2排出量算定に取り組みました。関係者の協力もあって、なんとかカテゴリごとの排出量を算定することはできましたが、ここから具体的にどうやって排出量を削減していけばいいのかわかりません。排出量削減のコツなどあれば教えてほしいです。
(小売業・Aさん)
Scope3のCO2排出量算定に取り組む企業が増えてきたことで、CO2の「可視化」から「削減」への興味関心が増えつつあるように思います。
そうですね。3年ぐらい前には、CO2排出量の算定方法が話題の中心だったので、ここ数年で脱炭素への理解や取り組みが大きく進んだことの証だと思います。早速お答えしましょう。
まずご理解いただきたいのは、Scope3のCO2排出量削減は、Scope1・Scope2の排出量削減と比べて難易度が高い、ということです。
Scope1・Scope2では、燃料や電気などの使用によるCO2排出量を削減すればよいので、省エネや節電などやるべきことが明確です。電球のLED化、社用車のEV化、太陽光発電、再生エネルギーの利用など、手段も豊富にあります。
一方、Scope3に関しては、カテゴリ1から15と対象範囲が広いうえに、各カテゴリの何に着目してCO2排出量削減をめざすか、その選定がまず大変です。さらに、排出量削減のためには、社内や取引先など第三者の協力をより多く必要とするため、Scope1・Scope2と比べて取り組みの難易度が高くなります。
現状ですと、Scope3各カテゴリの何に着目してCO2排出量削減をめざすのか、という点に苦労されている企業が多い印象なので、今日はそのあたりのヒントを解説したいと思います。
お願いします!
ITサービス会社での事例です。この会社は自社のITサービスを提供するため、サーバーなどのITインフラを他社から調達しています。
基幹システム内の発注データを精査したところ、オンプレミスサーバー構築のための調達金額が非常に多いことがわかりました。CO2排出量算定に詳しい方はご存じと思いますが、オンプレミスサーバーよりもクラウドサービスの方が排出原単位が低く設定されています。オンプレミスサーバーの代替としてクラウドサービスを調達するだけで、年間622tのCO2排出量が削減できる試算となりました。
調達金額の多い製品・サービスに関して、排出原単位のより低い製品・サービスへの乗り換えを検討する。これは比較的わかりやすく、実行しやすい削減手段と思います。
物流会社での事例です。本業に密接に関わるScope3のカテゴリ4「輸送、配送(上流)」、カテゴリ9「輸送、配送(下流)」にCO2排出量削減の余地があるのではないかという仮説から、基幹システム内のデータを精査することにしました。
輸送案件ごとのデータをさまざまな角度から検証したところ、300kmを超える長い輸送距離が年間514件存在していることがわかり、さらにそれら案件は、特定の輸送元Aから特定の加工工場Bへの輸送に集中していることがわかりました。そこで、輸送距離300km超の案件に関して「輸送ルートの見直し」と「輸送手段の見直し」をシミュレーションしました。
「輸送ルートの見直し」では、輸送先の加工工場Bを別の場所に変えることで、年間1.35t のCO2排出量削減が見込め、「輸送手段の見直し」では、輸送距離の70%を鉄道に変更することで、年間12.31tの CO2排出量削減が見込めることがわかりました。
膨大なデータの中から異常値や特異値を見つけ出し、その原因となっている要素を別のものに切り替える、あるいは取り止める。この作業によりCO2排出量の削減が期待できます。
Scope3のCO2排出量削減をどんな風に進めればよいか、なんとなくイメージが掴めたように思います。
ご紹介した事例と同じ条件のケースはあまりないと思いますので、2つの事例からいろいろなケースに応用できるエッセンスをTipsとしてご紹介したいと思います。
ご紹介した2つの事例は、どちらも社内の基幹システムから必要なデータを集計し、加工を行ったうえで分析や意思決定に役立てています。データ加工に関しては、Scope3のCO2排出量算定の結果を、「案件単位」「サプライヤー単位」「明細単位」などさまざまな単位で集計できるようにして、異常値や特異値が見つけやすくなる工夫を行っています。 企業によっては、そもそも業務がシステム化・デジタル化されておらず、元となる業務データの収集が困難なケースがありますが、ある程度のデータが収集できる企業は、BIツールなどを活用し、データの整備に取り組んでいくことがCO2排出量削減の近道になると思います。
事例1でオンプレミスサーバーからクラウドサービスへの乗り換え事例をご紹介しましたが、炭素会計の知識やスキルがあれば、オンプレミスサーバーとクラウドサービスの排出原単位の違いなどに着目し、CO2排出量削減につながるアイデアや仮説、着眼点を見つけ出すことができます。
企業内のデータ整備と並行して、社内に炭素会計の知識・スキルを持った人材を育成することで、効果の高いCO2排出量削減施策を立案することができます。「炭素会計アドバイザー資格」などの民間資格も設立されていますので、このような資格の取得を検討するのも一つの手だと思います。
「保有データの整備」と「炭素会計の知識習得」が重要なんですね。
いずれの要素も一朝一夕に体制を構築することは難しいので、取り組みの初期段階においては、外部パートナーが提供するサービスを利用することも有効と思います。
日立システムズでは、プロセスマイニング※の分野で大きなグローバルシェアを持つツール「Celonis Execution Management System」や、CO2排出量の算定・可視化に強みを持つ「Persefoni(パーセフォニ)」を活用し、CO2排出量の可視化から削減に向けた改善策の立案を行うサービス「CO2排出量削減に向けた業務改善支援サービス」を提供しています。
※プロセスマイニング:現行の情報システムのログをもとに業務プロセスを網羅的にマッピングし業務の課題を発掘、モニタリング、改善するデータドリブンな業務改革手法のこと。シーメンスやBMW、Uberなど名だたる世界企業が導入し成果を上げていることで大きな注目を集めている。
参考:Celonis Japan(セロニス)「プロセスマイニングとは?」
(https://www.celonis.com/jp/process-mining/what-is-process-mining/)
当社の炭素会計アドバイザー有資格者と、プロセスマイニングのプロフェッショナルが、CO2排出量の「分析」を通じて脱炭素に向けた効果的な削減施策の提案を行います。まずはこのようなサービスを利用して、Scope3の排出量削減に取り掛かるのもよいと思います。
先生、わかりやすいご説明ありがとうございました!今回の学びを最後にまとめておきます。
脱炭素経営の実現に向けて、これからもたくさんの質問にお答えします。次回もお楽しみに!
日立システムズは、CO2排出量の「分析」を通じて、脱炭素に向けた効果的な削減施策の実行を支援する「CO2排出量削減に向けた業務改善支援サービス」を提供しています。今回ご紹介した事例は当社が取り組んだ一例であり、実際の削減量についてはお客さまの環境等により異なります。CO2排出量の可視化や、ボトルネック特定・改善策の立案にご興味のある方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
カーボンニュートラルお悩み相談室では、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)、脱炭素経営に関する読者の皆さまからの疑問や質問を募集しています。お悩みは下記フォームよりお気軽にお寄せください。
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