カーボンニュートラルお悩み相談室は、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)に関するお悩み・お困りごとに、専門家がアドバイスをするQ&Aコンテンツです。回答を通じて皆さまの脱炭素経営をバックアップします。
今年からサスティナビリティ担当になった入社2年目の可児 裕(かにゆう)・通称「か~にゅ~」が、皆さまのアシスタントとして疑問・質問を一緒に解決します!
今回は、サプライチェーン(バリューチェーン)排出量算定に関するお悩みをご紹介します。回答するのは日立システムズの田熊なつ子です。
株式会社日立システムズ
金融DX事業部 第一本部 プロセスマイニングサービス部 第二グループ
技師 田熊なつ子
* カーボンニュートラルお悩み相談室では、読者の皆さまからの疑問・質問を募集しています。詳しくは本記事の最後をご覧ください。
雇用者の通勤で発生する温室効果ガス(以下、GHG)排出量を算定したいのですが、環境省が推奨する算定方法によると、マイカーの「燃費情報」が必要なようです。やはり、従業員ひとりひとりに乗用車の車種を尋ねて燃費を把握するべきでしょうか?
(情報サービス業・Aさん)
Scope3のカテゴリ7「雇用者の通勤」に関する質問ですね。確かに、燃費を把握するには車種を尋ねる必要がありそうです。田熊先生、この場合どうしたらよいと思いますか?
排出量算定の実務に携わられている方ならではのよい質問だと思います。早速質問にお答えしましょう。
雇用者の通勤で発生するCO2排出量の算定方法には、「燃料法」と「燃費法」があります。移動のために消費された燃料使用量が把握できる場合には、下記の算定方法を使用することが望ましいとされています。
燃料使用量が把握できる場合の雇用者の通勤の排出量算定方法
参考:「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.5)」Ⅱ-26(環境省)
(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver.2.5.pdf)
ただし、マイカーの場合、車が通勤以外の用途にも使われることが多いため、「燃料法」の使用は実際には難しいのではないかと思います。質問者さんがおっしゃるように、マイカーの車種情報から燃費を把握し、通勤時の移動距離をその燃費で割ることによって燃料使用料を求める「燃費法」を使用することが一般的になると思います。
でも、雇用者の通勤の社員全員に車種を聞き取りするのは、大きな会社だとなかなか大変そうですよ?社員のプライバシーにも関わりそうですし……。
確かにそうですね。社用車ならともかく、雇用者の通勤に使われている車種を把握している会社はほとんどないでしょう。社員ひとりひとりに聞き取りをするしかありませんが、現実的にそこまでの調査をすることが難しい場合もあると思います。
そこでおすすめしたいのが、統計値や平均値で代替するという方法です。以前、私たちが支援したクライアント企業は、国土交通省が公表している自動車の燃費一覧データを使い、さまざまな車種の平均燃費値を排出量算定に使用しました。
なるほど!そういう手もあるんですね。
正確な活動量の把握が困難な場合には、信頼できる機関が発表する統計値や平均値などのデータで代用して排出量算定を行うケースがあります。統計値や平均値を使用する場合、当然算定の精度は下がりますが、精度よりもひとまずカテゴリ全体の排出量算定を優先したい場合に有効な手段だと思います。
「算定の精度」と「算定のカバー範囲」はトレードオフの関係にあることが多いですが、どちらを優先するかはその企業のサプライチェーン排出量算定の取り組み状況や目的によって異なります。排出量算定をはじめて間もない企業の場合、まずは継続的、安定的に排出量算定を行える体制を作るためにも、簡易的なデータで算定を行うのはよい判断だと思います。
ちなみに、環境省はより簡易的なその他の算定方法も公開しています。これらの算定方式は、環境省のWebサイト「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」で公開されています。
雇用者の通勤の排出量算定に使用できるその他の算定方法
参考:「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.3)」22P,23P(環境省)
(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-3.pdf)
把握・入手できるデータや、サプライチェーン排出量算定の目的に照らし合わせて、適切な算定方法を選んでいただければよいかと思います。
田熊先生、わかりやすいご説明ありがとうございました!今回の学びを最後にまとめておきます。
脱炭素経営の実現に向けて、これからもたくさんの質問にお答えします。次回もお楽しみに!
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