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カーボンニュートラルお悩み相談室 Scope3のGHG排出量算定にこれから取り組むのですが、算定対象範囲のカテゴリはどうやって決めればよいですか?

カーボンニュートラルお悩み相談室は、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)に関するお悩み・お困りごとに、専門家がアドバイスをするQ&Aコンテンツです。回答を通じて皆さまの脱炭素経営をバックアップします。

  • 今年からサスティナビリティ担当になった入社2年目の可児 裕(かにゆう)・通称「か~にゅ~」が、皆さまのアシスタントとして疑問・質問を一緒に解決します!

今回は、Scope3の温室効果ガス(以下、GHG)排出量算定に関するお悩みをご紹介します。回答するのは日立システムズの田熊なつ子です。

  • 田熊なつ子
  • 今回の回答者

    株式会社日立システムズ
    金融DX事業部 第一本部 プロセスマイニングサービス部 第二グループ
    技師 田熊なつ子

* カーボンニュートラルお悩み相談室では、読者の皆さまからの疑問・質問を募集しています。詳しくは本記事の最後をご覧ください。

Scope3のGHG排出量算定にこれから取り組むのですが、算定対象範囲のカテゴリはどうやって決めればよいですか?

読者からのお悩み:

当社では来期からScope3のGHG排出量算定に取り組みます。Scope3には1から15までのカテゴリがありますが、どのカテゴリを算定対象とすべきかいまいちよくわかりません。やはり全カテゴリを算出すべきなのでしょうか?
(製造業・Aさん)

か~にゅ~:

Scope3のGHG排出量算定に関する質問ですね。田熊先生、Scope3については最近勉強したばかりなので、はじめに私からカテゴリの説明をしてもよいですか?

田熊:

どうぞどうぞ!ぜひお願いします。

か~にゅ~:

自社だけでなく、事業活動に関連する他社のGHG排出量も明らかにする取り組みがサプライチェーン(バリューチェーン)排出量算定です。これはScope1、Scope2、Scope3と呼ばれる各分野のGHG排出量の総和で求められます。

Scope1、Scope2、Scope3と呼ばれる各分野のGHG排出量の総和

Scope1は燃料の燃焼など事業者自らによるGHGの直接排出。Scope2は他社から供給された電気、熱・蒸気の使用にともなう間接排出。そしてScope3は、Scope1とScope2以外の事業者の活動に関連する他社の排出になります。ここまで間違いありませんか?

田熊:

完璧です!

か~にゅ~:

このScope3は、取引先における原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など一連の流れに加えて、従業員の通勤・出張、投資、リースなどの活動で排出されるGHGも算定対象としています。これらの排出活動を整理しているのがカテゴリで、カテゴリ1からカテゴリ15まであるんですよね。

田熊:

素晴らしい説明です。このカテゴリ1からカテゴリ15までのうち、自社はどのカテゴリを算定範囲とすべきか、というのが質問者さんの知りたいことですね。

Scope3カテゴリ該当する排出活動(例)
1購入した製品・サービス原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
2資本財生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上)
3Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等)
4輸送、配送(上流)調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
5事業から出る廃棄物廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送(※1)、処理
6出張従業員の出張
7雇用者の通勤従業員の通勤
8リース資産(上流)自社が賃借しているリース資産の稼働(算定・報告・公表制度では、Scope1,2に計上するため、該当なしのケースが大半)
9輸送、配送(下流)出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売
10販売した製品の加工事業者による中間製品の加工
11販売した製品の使用使用者による製品の使用
12販売した製品の廃棄使用者による製品の廃棄時の輸送(※2)、処理
13リース資産(下流)自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
14フランチャイズ自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2に該当する活動
15投資株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用
その他(任意)従業員や消費者の日常生活

※1 Scope3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を任意算定対象としています。
※2 Scope3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を算定対象外としていますが、算定頂いても構いません。
出典:環境省ホームページ(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

Scope3のカテゴリは、
一定の基準に従って自社に必要なカテゴリを選べばOK

田熊:

Scope3のすべてのカテゴリでGHG排出量算定を行うことが理想的ではありますが、一定の基準に従って、一部カテゴリを算定対象から除外してもまったく問題はありません。

環境省Webサイトでは、サプライチェーン排出量算定に取り組んださまざまな企業の事例を紹介しています。ここでは、各企業がScope3のどのカテゴリを算定対象、あるいは算定対象外にしたか、また、その理由を確認することができます。

参考:業種別取組事例一覧(環境省Webサイト)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/case_smpl.html

か~にゅ~:

先生、各企業の取り組み事例をいくつか確認してみましたけど、カテゴリ1から15まで、すべてを算定対象範囲としている企業はほとんどないんですね。

田熊:

そうですね。ほとんどの企業が一定の基準に従って特定のカテゴリを算定対象外にする判断をしています。その基準については、環境省が「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.5) 」の中で、以下のように記載しています。

サプライチェーン排出量は(中略)カテゴリごとに算定を行います。全てのカテゴリについて排出量を算定することが望まれますが、算定の目的や排出量全体に対する影響度、データ収集等の算定の負荷等を踏まえて、算定するカテゴリを抽出して算定することも考えられます。具体的に、一部のカテゴリを算定対象範囲から除外する際の基準としては、以下が挙げられます。

  • 該当する活動がないもの
  • 排出量が小さくサプライチェーン排出量全体に与える影響が小さいもの
  • 事業者が排出や排出削減に影響力を及ぼすことが難しいもの
  • 排出量の算定に必要なデータの収集等が困難なもの
  • 自ら設定した排出量算定の目的から見て不要なもの

出典:環境省ホームページ
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver.2.5.pdf

か~にゅ~:

先生、「自ら設定した排出量算定の目的から見て不要なもの」という基準は、具体的にはどういうことですか?

田熊:

例えばですが、ある食品メーカーがScope3の排出量削減に取り組んだとしましょう。この会社は、自社製品容器の形状や原材料が排出量に大きく影響していると考え、排出量算定の目的を「自社製品容器の改善活動が排出量におよぼす影響をモニタリングする」というものに設定しました。この場合、カテゴリ6「出張」やカテゴリ7「雇用者の通勤」などは排出量算定の目的から見て不要になりますので、算定範囲から除外しても合理的な判断になると思います。

か~にゅ~:

なるほど、そのような判断も許容されているんですね。

田熊:

自社の目的に照らし合わせて、自社の考えのもとで排出量算定を行うことを、私たちは「自社算定」と呼んでいます。「自社算定」については今のところ明確なルールがありませんので、どのカテゴリを算定対象としたか、あるいは算定対象としなかったかについて、自社なりの理由を明確にしておければよいと思います。

か~にゅ~:

今日はScope3の算定対象範囲について、大分理解が深まりました。

田熊:

実際に算定対象の範囲決めに取り掛かってみると、「本当にこれでいいのかな?」「このカテゴリは自社に該当するのかな?」と不安になることが数多くあると思います。そんな時には、GHG排出量算定の専門家にアドバイスを求めるのも手かと思います。

日立システムズでももちろん、GHG排出量算定の全体設計や実行支援をお手伝いするコンサルティングサービスを提供していますので、これからScope3の排出量算定に取り掛かる企業さまはぜひご相談いただければと思います。

か~にゅ~:

田熊先生、わかりやすいご説明ありがとうございました!今回の学びを最後にまとめておきます。

今回の学び

  • Scope3のGHG排出量算定は、必ずしもすべてのカテゴリで行わなくてもよい。
  • 「該当する活動がない」「排出量が小さくサプライチェーン排出量全体に与える影響が小さい」など一定の基準に従って、特定のカテゴリを算定範囲外としてもよい。
  • カテゴリの算定範囲の決定に自信が持てない場合は、外部の専門家にアドバイスを求めるものよい。
か~にゅ~:

脱炭素経営の実現に向けて、これからもたくさんの質問にお答えします。次回もお楽しみに!

お知らせ

日立システムズは、GHG排出量算定における算定範囲の決定や、算定精度・算定粒度の向上など、GHG排出量可視化計画の全体設計および実行支援を提供しています。ご興味のある方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

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