私の友人のAさんから、ある日、電話がかかってきました。
Aさん:「実は俺の息子が、東南アジアの国々を一人旅したいから旅費を援助してくれと言い出してね。学生時代最後の旅だし、了解したんだよ。でも、心配だから海外の安全に関する情報をよく調べてから行くようにと言ったんだ」
私:「それは、正しい助言だよ」
Aさん:「ところがさ、突然、やっぱりやーめた!と言い出したんだよ」
私:「えっ!どうして?」
Aさん:「安全情報を調べているうちに、犯罪・暴動・感染症とか、いろいろあり過ぎてね。親が言うのもなんだけど、真面目な息子だから、書いてあることすべてに注意しなきゃいけないんだったら、観光しても面白くなさそうだし、というんだよ」
私:「なるほどー。でも、それはね、ある意味において正しい選択だな」
Aさん:「えっ!そうなの?引っ込み思案な息子が珍しく冒険したいと言い出したのだから、いろいろ経験した方が良いんじゃないのか?俺は、息子には社会に出る前に根性をつけさせたいんだ!相談してるんだから、真面目に答えてくれよ!」
私:「まあ、今から言うことを落ち着いて聞いてよ」
という成り行きで、友人の息子さんの旅行について、次のような助言をしたのです。
まず当たり前のことですが、「海外安全に関する情報」に記述されているすべての事柄が、同じ場所で、同時に発生する可能性は、ほぼ「ゼロ」に近いということを理解すべきです。
犯罪・テロ・誘拐・事故・暴動・紛争・自然災害・感染症などは、発生しやすい「場所」と「時間帯(時期)」があります。渡航先の危険情報と旅程とを見比べて、「場所」と「時間」を意識しながら「危なそうな事柄」を読み解いていけば、頭の中を整理しやすいと思います。
「危なそうな事柄」が具体的に分かったら、次にそこから「遠ざかること」、そして「どうやって遠ざかるか?」を考えることが予防対策の面からも重要です。
単に、「危なそうな事柄」から「距離」を置くか、「より安全な時間(時期)」を選べばいいのです。これは、すべての脅威に対して有効に機能する考え方で、被害に遭う確率を劇的に低減することができます。
外務省や海外危機管理専門家などの「対策助言」は、ほぼ例外なく、この原則に沿っています。予防対策を読むときには、「距離」・「時間(時期)」を意識すると非常に理解しやすいのです。
しかし、どうしても「距離」を置いたり「時間」を選んだりできない場合には、どうすればいいでしょうか?
例
業務都合などで、やむを得ず「危なそうな場所」に、「時間(時期)」を選ぶことができないまま接近しなければならないことは、多々あるものです。また、空港、宿泊施設、レストランなどは避けることができませんし、旅行では観光地に行かないと意味がありません。そういう場合には「行動」によって、可能な限り危険から遠ざかる工夫が必要です。
行動とは、「振る舞い」と言い換えると理解しやすいかもしれません。渡航先の治安情勢、政治情勢、現地の社会風土・文化、気候、衛生状態などに応じて適切な「振る舞い」をすることによって、被害に遭う確率を大きく低減させることが可能です。
専門的には、奥深い理論があるようですが、予防行動は「目立たない」「行動を予知されない」「用心を怠らない」という、たった3つの原則に基づいています。そのような観点で対策情報を読めば、非常に理解しやすいのです。
例
Aさん:「なんだ、簡単な理屈じゃないか」
私:「そうだよ。予防の基本は、
(1)危険情報を入手
(2)「距離」を置く、「時間(時期)」を選ぶ
(3)「行動」を工夫する
という単純な三段構えで、被害に遭う確率を低減することなんだよ。
一度、説明して理解してもらえたら、あとは自分で調べてできることが多いからね。それに、なるべく簡単に理解して記憶しとかないと、現地で対応マニュアルを読んでいる暇なんてないからな」
Aさん:「よく分かった!ありがとう!すまないが、もう一度、同じことを息子に説明してやってくれないかな?」
私:「ひょっとしたら、君は海外には行かないほうがいいかも知れないな」
[山本 優 記]
※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
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