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株式会社 日立システムズ

専門家コラム:非常識な人材育成の旅

【第5回】新しい働き方(3)~「副業」から「複業」への転換へ~雇用から活用へ。調査データから読み解く、新たなビジネスキャリア学

皆さん、こんにちは。場活師西村です。私は、企業の人事・育成部門に所属しながら、職場・現場の活性化を実現する場活師としてさまざまな取り組みを行っています。
本コラムでは、「非常識人材育成論」として組織における人材育成について連載し掘り下げます。それは、「非常識」な「現場事例」「意見」「視点」の切り口にこそ、変化の著しい環境下での人材育成のあり方があるのでは?という問題提起でもあります。
今回は、「副業」「複業」を切り口に、組織と個人のこれからのあり方を考えるシリーズ3回目です。

なぜ、複業なのか?~時代の変化に合わない企業社会の人事制度・マネジメントスタイル

前回、前々回のコラムでは、「専業禁止」を導入する企業、働き方の新潮流として「顧問」という新たな複業スタイルをサービスとして展開する企業をご紹介しましたが、なぜこのようなワークスタイルが生まれてきたのか?これらの事例が生まれてきた時代背景とその意図する本質について、今回は調査データを交じえながら自説を展開したいと思います。

年代と共に低下するビジネスマンの「成長実感」。

経験学習で著名な神戸大学大学院経営学研究科の松尾 睦(まつお まこと)教授が行ったビジネスマン向けの調査によると、ビジネスマンの成長実感は年代と共に低下傾向にあることがわかります(下表参照)。


神戸大学大学院 松尾教授「経験学習入門」より出典

確かに、新入社員や若いころは、「何でも吸収してやろう」という夢や希望に満ちあふれていますが、年齢と共に役職が上がり、責任が重くなり、家族を持ったりすると、心のどこかで「諦め」や「どうせ、こんなもん」などと思うことが多くなるのもうなずけます。むしろ、現実の企業社会を見渡すと、生涯を通じて活き活き働いていくことの方が珍しいのでは?と思えてしまうのも事実です。年齢を重ね役職が上がり、責任ある仕事を任されることは、組織人としては喜びや働きがいを感じることである一方で、「分別がつき冒険しなくなる」「おかしいと思っても口に出さず、長いものに巻かれる」「純粋な気持ちを置き去りにする」ことが一般的になっているとも言えます。
しかし、このビジネスマンに共通する年齢と共に低下する成長実感は、恐ろしいことに組織にあるダメージを確実に与えていると私は見ています。

12人に1人が社内ニート?

このデータは、内閣府発表の「日本経済2011、2012」から引用したものです。政府は勤労者5469万人のうち465万人の社内失業者が存在するとしています。この数字は全体の8.5%であり12人に1人の割合というもので、驚くべき数字です。
社内失業者には、何らかの理由による休職者も含むと思われますが、それにしても成果に関係のない層が1割に近い割合で存在する事実には、「活き活き働く活気あふれる職場」「生産性の高い職場」のイメージとは程遠いように感じられます。プロスポーツに例えれば、結果やパフォーマンスを上げないのに、プレーヤーである状態とも言え、その実態が尋常ではないように思えます。皆さんの職場ではどうでしょうか?


内閣府『日本経済2011-2012』のデータ引用により作成

「年齢」、「賃金」、「生産性」を企業の人事部はどう見ているか?

また、ここに注目すべき調査があります。独立行政法人労働政策研究・研修機構による『高齢者の雇用・採用に関する調査』(2010年)です(下表参照)。


独立行政法人労働制作研究・研修機構『高齢者の雇用・採用に関する調査』2010年

これは、企業の人事担当者に「自社の社員を年代別に「賃金」、「生産性」との相関で判断した場合、「賃金<生産性」「賃金=生産性」、「賃金>生産性」のいずれに当たるか」という興味深い調査データです。あくまで人事部の見方・主観ではありますが、どのように自社社員を見ているか、の傾向が分かります。
調査回答には、「無回答」も多かったものの、回答企業の傾向を見ると、50歳を境に急激に「賃金が生産性上回る」と回答している企業の割合が多くなります。ここに人事の本音や職場の実態が見え隠れするような気がします。
先ほどの内閣府の調査と合わせて考えると、現在の人事制度やマネジメントシステムの歪(ひずみ)が出ている気がしてなりません。

いつオープンになってもおかしくないパンドラの箱

最近、事業の再編など新聞紙上を賑やかしている電機業界ですが、電機労働者懇談会(電機懇)の調べ(2013/11/7)では、電気情報産業(121企業・職場)の社員数168万3889人のうち、19万9815人が潜在的な人員削減の対象とレポートしています。潜在的とは、景気の減速や個別企業の業績次第では、表面化する可能性のある余剰人員であり、まさにパンドラの箱と言えます。近年、アベノミクスの効果が株価上昇、景気回復傾向により表面化していませんが、このレポートでは雇用と生産性のギャップが潜在的に存在することを示唆しています。これは、電機情報産業に限らず、他の業界にも当てはまる気がしています。
このコラムでは、読者の皆さんに不安感をあおるわけではありません。しかし、何らかの手だてや変化を起こしていかない限り、現行の人事制度やワークスタイルが内在している歪(ひずみ)=雇用と生産性のミスマッチは、緩やかに上昇するであろうと、筆者は見ています。

歪(ひずみ)の背景

これまでにご紹介した調査結果では、制度や仕組みが潜在的に抱えている「歪(ひずみ)」を示唆しています。それは、どのような人事制度であれ、年功終身型、ポスト重視を基本とした制度では、一定年齢で労働生産性が逆転する可能性が高いということです。
その背景には、

  • 賃金の考え方→厳密な成果より年数、生活保障の意味合い
  • 評価指標→個人の能力・市場性よりポスト・組織内事情
  • キャリア意識→個人の自律・能力開発より組織と個人の従属関係

が見え隠れします。皆さんは、どのように感じますか?

このように日本型経営を支える人事制度とは、年齢をベースに、賃金・ポストをマネジメントする仕組みであったと言えますが、社会や市場の成熟度が増すと共に商品やサービスの競争が業界や国を超えて激化し、少子高齢化が非常なスピードで進み労働力人口が減少する環境にあっては、既に時代の変化に適応不全=ミスマッチしている、と言っても過言ではないのではないでしょうか?
それは組織の生産性と働く人の意欲を低下させるとも言えます。環境変化によって社会のルールが変わりつつあるにも関わらず、変わりきれないのは企業の人事制度と仕組み(育成含む)ではないでしょうか?

非常識な説「40歳定年制」に見る、事の本質


柳川範之著「日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日」(単行本)

労働寿命が長くなることによる労働生産性の低下に対して、「40歳定年制」という、一見、非常識な説をもって解決策を唱えている学者がいらっしゃいます。東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授です。

東京大学大学院教授 柳川範之著「日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日」(単行本)
40歳定年制の意図について、柳川教授が主張されるポイント列記しました。
(「」以下は筆者の意見と補足コメントを記載)

  • 40歳定年制とは、75歳まで長く働けるようにするため。20歳すぎから同じ会社で75歳までバリバリ働くのは厳しい。時代の変化に応じ、知識やスキルを磨き直す機会、いわば燃料補給のためにリセットする期間が必要。
  • 勉強したいという30~40代の働き手は多い。自分を磨いたうえで同じ会社で働き続けてもいいし、転職してもいい。

→成長欲求が高い層は、一方で企業にとっても即戦力。働き盛りの社員を第一線から外すことの双方のデメリットもあり、現実的にはハードルが高い気がします。

  • 企業内の人事・研修制度は限界にきている。産業の浮き沈みが激しくなっており、余剰人員の『適所』が社内にあるとは限らない。企業がM&A(合併・買収)で成長事業を手に入れても、衰退事業から全員をシフトできない限り、『社内失業』が発生する。
  • 社内教育も難しい。知見のない異分野のことを社内で教えるのは無理だ。外部講師を雇おうにも企業の研修予算はバブル期に比べ減っている。

→社内の制度や教育が、キャリアに与えている影響は少ないと見るべき(前号のコラム、または次項参照)

  • 知識やスキルが陳腐化した働き手を待ち受けるのは社内失業。企業が彼らを65歳とか70歳まで抱えられるならいいが、実際には経営が傾くと真っ先にリストラ対象になる。スキルアップの機会がないまま、55歳、60歳で職を失うほうがはるかにリスクは大きい。
  • 企業に余裕がなくなり、200万~300万人ともされる社内失業者が本当の失業者になると大変だ。再就職できるスキルを早めに身につけてもらう必要がある。

 一見「非常識」と思える説ですが、その本質は的を射ていると思います。柳川教授の説が現実味を帯びるのは、現行の人事システムが時代の変化に対応しきれないことの裏返しとも言えます。

雇用から活用へ~ビジネスキャリアの二毛作論へ

日本的経営を支えてきた社内配置、年齢、終身、ポストをベースにした従来の人事制度は、まさにビジネスキャリアを「単一=一毛作(入社~定年)」的に捉えた諸制度と言えます。
しかし、「そもそもこの考えには無理がある」と、唱えた柳川教授の40歳定年制には、以下の重要な示唆があると思います。

  1. 少子高齢化が非常な速さで進行し若年労働力人口が減少していく環境にあっては、労働寿命も伸びるが、定年延長など期間の延長では、企業環境の変化への対応が難しいこと(生産性の課題に直面)。
  2. 労働寿命の延長に伴い必要とされるのは、「雇用」の名の元に存在する「企業と個人の従属的な関係」ではなく、環境変化に耐え得る新たな関係づくり「活用を基本とした対等な関係」。
  3. そのために、ビジネスキャリアを一毛作でなく二毛作~多毛作と捉え直し、「リセット(区切り)」の概念を導入(教授は、「定年」と表現)。その間、学習機会(燃料補給)やさまざまな体験を通じて、に毛作として活躍できることで結果的に労働寿命が伸びる。

即ち、働く側が組織の中でのポジション・ミッションを果たすためのスキルだけでなく、生涯を通じて活用されるポータブルなスキルを身につけることができるか?です。
また、ビジネスキャリアを2毛作として捉えた場合、企業内教育や能力開発のあり方も、年齢を超えて「活用され続ける」ための育成であるべきで、まさに企業内教育にとってのパラダイムのシフトと言えるのではないでしょうか?


人生二毛作。刈り取りつつ育てつつ…

能力開発、キャリア開発、人材育成としての複業

ここで、前回ご紹介したビジネスマン向けのWeb調査「仕事の成果と能力開発に関する調査(詳細は前号参照)」をおさらいしてみましょう。

  • 仕事の成果に影響を与えているのは「社外の専門家との交流」である。
  • 仕事成果には人事制度は、ほとんど影響していない。
  • 年齢と仕事の成果の高まりは影響していない。
  • ダイナミックな仕事経験やさまざまな人々との出会い、メンバーの成長などを通じて成果が高まる傾向にある。
  • 成果を高めるための支援としては、 自主裁量の容認と仕事上の高い要求の必要性が効果的。

柳川教授の40歳定年制と、上記結果を重ね合わせると、複業の本質が浮かび上がってきます。
柳川教授は定年=リセット期間(燃料補給)としましたが、更に論を進めると「働きながら燃料を徐々に補給する=スキルとキャリアを磨くのが複業」と言えます。
前回、エッセンス(株)の米田社長が指摘した「今後は、現役の社員が複業として顧問を行うようになる可能性も充分あると思います」とのコメントが、がぜん現実味を帯びてきます。まさに複業とは、定年=リセットして何かを行うというゼロイチの働き方ではなく、社内の業務(本業)に携わりながら社外の業務(複業)を行うという7割3割(ナナサン)の考え方です。
従来は、「副業禁止」をうたって自社内に縛りつけていましたが、能力開発やキャリア教育の視点からすると、一定の企業内ルールのもと、自社内の業務をやりながら複数の社外業務を「複業」として行う新しいワークスタイル(本業7割、複業3割のナナサン)の方が、これからの時代の能力開発としては効果的と言えます。これは、従来の所得補填(ほてん)としての副業から、キャリア開発、能力開発としての複業に生まれ変わる瞬間とも言えます。
前回、前々回と取材した事例は、まさに新しいワークスタイルとしての「複業」の幕開けと言えます。

7割3割(ナナサン)という複業にチャレンジする企業と人々の出現

つい最近、ITシステムで有名な「サイボウズ」社が、複業(パラレルワーク)を認めたというニュースが入ってきました。他にも、前々号で取材したエンファクトリーに加え、TBSテレビ、ロフトワーク パブリッシングコミュニケーションなど、徐々にその広がりを見せつつあるようです。
また、商社勤務の現役ビジネスマンがNPO法人として「2枚目の名刺」を設立するなど、の動きも出ています。顧問派遣業のエッセンス(株)も、フリーランスの顧問に加え、現役社員の顧問活用の実績も徐々に出てきたようです。
不思議なことですが、本コラムの内容とシンクロするように、「複業」が徐々に注目を浴びつつあるようです。筆者は、一見、非常識とも思えるこの動きに、次世代のワークスタイルのヒントが隠れていると思えてなりません。
次回のコラムでは、実際に複業に従事されている方へのインタビューを通じ、複業が本当に能力開発やキャリア開発にプラスになるのか?また、ルールも含めて企業はどうあるべきか?について、深掘りしたいと思います。お楽しみに。

今号の独り言

皆さんには、どんな複業の可能性があるのでしょうか?

複(福)業で 実りたわわな 二毛作

※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

次回コラムの予告

副業から複業で活躍するプロフェッショナル人材に見る、新たなビジネスキャリア学

 

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