2012年1月18日掲載
中小企業のコスト削減や戦略実現においてIT化は重要なソリューションの1つです。しかしながら、IT化には取り組んでいるがITの活用、とりわけクラウドの活用に取り組んでいる企業はわずか4.3%にすぎません。しかし逆に言えば、ITの活用に取り組むだけでも評価を高めることになり得ます。では、多くの企業がなぜITの活用に取り組めないのでしょうか?また、どうしたら取り組めるようになるのでしょうか?
椎名めぐみ(仮名)社長は、千葉市で雑貨の仕入販売会社セシボン(仮名)を経営している。45歳の時にご主人を亡くし、必要に迫られて起業してから5年が経つ。
雑貨集めは椎名社長の趣味でもあった。商品は比較的安価で品質がよく、ファッション性も高いため、若い女性の口コミで評判を呼び、固定ファンがたくさんいる。
起業したばかりの時、法人会が時々開いている相談会で金太郎と知り合った。それをきっかけに二宮コンサルティング事務所のクライアントとなり、現在ではパートを含む5人の社員を雇うまでに会社を成長させた。

将来的にはもっと多くの社員を雇って地域経済に少しでも貢献したいと考えているが、現時点では社員の給与水準を上げたいと考えている。
「金太郎先生、うちの会社に足りないものって何かしら?」
椎名社長は、訪問してきた金太郎に紅茶を勧めながら、こう切り出した。カップもティーポットも社長がみずから探し出してきたもので、店でも販売している。
「すばらしい香りのアールグレイですね。」
金太郎は、外見からは想像しにくいが、紅茶には少しうるさい。さらに紅茶の話を続けたいところだが、社長の視線を感じて質問に答えることにした。
「足りないものと言われても、十分そろっています。『若い女性に"本物"の優れた雑貨を手の届く価格で提供する』という経営理念にも共感できますし、ファンとも言えるお客さまも集まっています。業績も安定していますし、社員もみな優秀で適材適所です。これ以上望むべくもないと思いますが…。」
「金太郎先生にお世辞は似合わないわ。」
お世辞ではないと言おうと思ったが、黙っていることにした。
「その優秀な社員たちの給料が少ないと私は思うの。」
「平均的な給与水準を考えると十分かと思いますが。」
「"セシボン"の社員の給料はもっと高くなければいけないと思うの。そうでないと、本当の意味のブランドにならないじゃない。」
「なるほど、ブランド化を考えているんですね。そうなると、ほかの条件はそろっているので、意外かもしれませんが、ITを活用されることをお勧めします。将来的にはインターネット販売も考えたいですね。」
「ITか、確かに意外ね。その前に、ほかの条件って?」
「これはあくまで私の考えですが、ブランドと言えるのはこのような事業だと思います。」
金太郎は、会議室のホワイトボードに次のように書いた。
「そうね、一流ブランドってみんなそうね。それに比べればうちはまだだけど、ある程度は達成できてるんじゃないかしら。この地域では『若い女性向けの雑貨と言えば"セシボン"』と言えるようになってきたと思うわ。」
「そうですね。価格は比較的安価ですが、安売りはしていませんしね。」
「しかし、ITねえ…。ちょっと苦手。」
「御社でも、パソコンを入れてインターネットにはつないでいますよね。」
「さすがに、そのぐらいはね。」
金太郎はいつも持ち歩いている『中小企業白書 2011』を取り出して249ページを開き、「第3-2-8図 IT化の取組の実施状況と実施した企業の効果」というグラフを示した。
「これを見ると、中小企業の89.2%がIT化に取り組んでいると回答しています。内容を見ると、『パソコンの導入』が87.2%、『ネットワークへの接続』が73.1%と多いですが、『電子商取引の活用』は24.2%、クラウドコンピューティングの活用に至っては4.3%にすぎません。」
「うちのような会社がほとんどだってことね。」
「電子商取引に関しては、大企業との商取引で指定されているために導入していることが多く、インターネットで消費者に直接、販売しているケースはもっと少ないと思われます。」
「まあ、ネット販売は考えなくもないけど、クラウドコンピューティングなんて言われても、それこそ『雲』をつかむような話だわ。というよりクラウドコンピューティングって何?」
「クラウドコンピューティングは略してクラウドと呼ばれます。いろいろな定義がありますが、簡単に言うと、インターネットを通じてユーザーにコンピュータの機能やソフトウェアを提供し、ユーザー数や使用量に応じて課金するサービス全般を指すと言えばいいでしょうか。」
「ネットショッピングのようなサービスもそうなの?」
「かなり広く捉えればそれも含まれるかもしれませんが、一般的には業務用のソフトウェアの機能と運用サービスを提供するものと考えていいでしょう。」
「どういうこと?」
「例えば、御社の販売データを社員みんなで共有したいとします。クラウドという概念がなかった頃は、自社でサーバーと販売管理用のソフトウェアを導入し、社員が社内のネットワーク(LAN)経由でパソコンからサーバーにアクセスしてデータの入力や閲覧をするという形がほとんどでした。」
「そうすると、サーバーとソフトウェアの購入費用、ネットワークの費用がかかるってことね?」
「おっしゃるとおりです。でも、それだけではありません。サーバーとソフトウェアに関しては、保守費用が別途かかりますし、また日々の運用のための人件費もかかります。日々の運用をするためには、コンピュータ全般の知識が必要となるので、詳しい方が社員にいれば別ですが、通常はそのための教育費も必要となります。」
「うちにコンピュータに詳しい人はいないわ。日々の運用と言われてもイメージが湧かないし…。」
「そのあたりが、中小企業のIT化のボトルネックになっているようです。便利なのは分かるけど、知識がない。大概のことはパソコンの表計算ソフトやワープロソフトで何とかなるので、勉強するモチベーションも湧きません。ちなみに日々の運用というのは、WindowsのようなOS(基本ソフト)やアプリケーションソフトの修正プログラムを定期的に適用したり、データのバックアップを取ったり、データが増えてきた時にハードディスクを増設したり、使用状況のチェックをしたりすることを指します。コンピュータウイルスなどへのセキュリティ対策も重要ですね。」
「うわっ、そんなの無理。」
「そうですよね。もう1つ、ITの利用が進まない理由は、IT化したいと思っても製品や業者を選定するノウハウがないということでしょう。使い始めてから製品選定が間違っていたと気付いたとしたら、ソフトウェアを買い直すことになって、それまで入力していたデータを新しいソフトウェアに入れ直さないといけない、なんてことになります。業者の選定に失敗すると、もっと悲惨なことになりかねません。」
「どうなっちゃうの?」
「私の事務所にITコンサルタントのパートナーがいます。彼女の話では、2,500万円という契約で作ったシステムの使い勝手が悪く、ベンダーに改修を求めても応じてもらえない、というケースがあったそうです。ベンダーにも言い分はあるでしょうが、そういうシステムを使い続けることは業務自体に悪影響を与えます。そこでそのパートナーが間に入り、500万円の追加でシステムを改修することにしたそうです。」
「まあ、大変なのねえ。」
「良心的で真面目な業者が多いのは確かですが、ITの専門家は個別業務を理解することに限界があり、一方でシステムを利用する側も、進歩が激しく横文字で聞きなれない専門用語が多いITのことを理解しにくい。その結果、コミュニケーションに食い違いが生じやすいんですね。それが、こういうトラブルの背景になっているんです。」
「そうなの。でも、そんなにしんどい思いをしてまでIT化するのもいやね。」
「そう考える会社が多いのは確かですね。しかし、逆にIT化するだけでもアドバンテージになるのも事実なんですよ。日本で最大の売上を誇る衣料品販売会社も、ITを本格的に導入したことが、発展のきっかけになったと言われています。」
「うちはそんなにお金をかけられないわよ。もっと身近な事例はないの?」
金太郎は『中小企業白書 2011』を再び開いた。
「あります。これです。」
金太郎が得意げに示したのは、249ページ「事例3-2-6 ITを活用して、即日対応の家事代行サービスを提供している企業」という事例である。
「東京都中央区で家事代行サービスをしているベアーズさんという会社の事例です。以前は見積もりからスタッフ派遣まで2週間かかっていたのが、システムを導入したことで即日対応が可能になったというんです。年商は5年前の2億円から今では9億円に増えたそうです。」
「すごいわねえ!」
「ベアーズさんの社長も女性で、椎名社長と理念が似ています。"家事代行業界"を築くことを目指しているんだそうです。これは、『雇用の創出』ということですね。」
「本当ね。私は既存業界で働いているけれど、雇用を創出して地域に貢献したいと思っているから、とても共感するわ。」
「ベアーズさんでは社内でシステムを開発していますが、これは家事代行サービスという業態が新しいために、既成のソフトウェアが無かったからでしょう。御社の場合は、多くの業務をクラウドで効率化できると思いますよ。」
「クラウドを勧める理由は何?」
「先ほど、中小企業がITの活用がうまくいかない理由を挙げましたが、クラウドはそれを解決してくれるからです。費用は使用量やユーザー数に応じて決まるのでリーズナブルですし、資産ではないので減価償却ではなく損金で計上できます。日々の運用に手間を取られる心配もありません。使い方は多少、勉強する必要があるでしょうが、体験版のサービスでお試しができるものもあります。お試しができなくても、費用が安いので選定のリスクは大きくないでしょう。サービス事業者が倒産する可能性がないわけではありませんが、そこは通常商取引の与信管理と同じです。」
「なるほど、便利そうね。で、うちにも合いそうなサービスはあるの?」
「では、一緒にインターネットで調べてみましょう。」
今日は"セシボン"が新たな一歩を踏み出す転機になるかもしれない、そう思うと金太郎はうきうきした気分になるのであった。
まとめ
[株式会社ITブレークスルー代表取締役 森川 滋之 記]
日立システムズは、システムのコンサルティングから構築、導入、運用、そして保守まで、ITライフサイクルの全領域をカバーした真のワンストップサービスを提供します。
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