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株式会社 日立システムズ

第11回 あすな、道を切り拓く

「帰れ!」
次の日、あすながビジネス・キューピッドに出社すると、日比野は第一声でそう叫んだ。
「え…何でですか?今来たばっかりなのに…」
「当たり前だ!うっかり近寄ってインフルエンザをうつされてたまるか!」
日比野の言葉に、「え?」ときょとんとした顔をするあすな。ナミは思わず「あはは」と笑ってしまった。
「あすなちゃん、仮病を使ったこと忘れてうっかり出社しちゃったのね…もう正直に謝るしかないわ」

「仮病だと!?」
「はい…すみません、実は昨日どうしても休みたくて」
「全く…じゃあその妙に顔色が悪いのは何でなんだ?」
日比野の言葉に、ナミは改めてあすなの顔を見る。確かに目の下にくっきりクマができ、青ざめている。
「あすなちゃん…まさかウソから出た誠ってやつじゃ?」
「違うんです…これは、昨夜徹夜しちゃって…」
そう言って、あすなは持ってきた資料を2人にわたした。

あすなが編み出した、起死回生のプロジェクト案

「冗談じゃない。俺は徹夜しろなんていう指示は出してないぞ…」
株式会社ビジネス・キューピッドも、当然労働法は順守している。あすなは病欠の連絡をしたうえで、勝手に徹夜をしているのだから、質が悪い。
「ごめんなさい…アイデアが浮かんだら眠れなくなっちゃって、じゃあもうついでにレポート書いちゃえって思ったので」
「…話は聞いてやる。終わったら帰ってすぐ寝ろ。いいな?」
そう念押しをして、急遽、3人の企画会議が始まった。

あすなのプロジェクトの素案は、以下のようなものだった。

  • 苦学生のためのシェアハウスを確保するための資金を得る。
  • そのシェアハウスでは、学生たちが生活を共にしながら、月に1度、タウン紙「かすみタイムズ」を発行する。初代編集長は架純。かすみタイムズは地域の主要新聞に織り込まれて1万部程度配布し、またフリーペーパーとしてカフェや駅などにも陳列する。
  • 建設資金を提供してくれた個人や企業は拠出金額に応じて、かすみタイムズで広告記事を掲載したり、連載記事を寄稿したりすることができる。
  • プロジェクト終了後も、かすみタイムズへの広告料収入がシェアハウスの運営資金として活用される。

「どうでしょうか?」
確かにあすなのアイデアは、氷室が提示した「サステナビリティ」の条件を満たしている。広告料収入を得ながらタウン紙の発行を続けられれば、その後も学生が生活するための資金をかなり補助できる可能性は高い。
「素敵だけど…シェアハウスを建てるほどの金額を集めるのは大変ね」
ナミの指摘したポイントは、日比野も感じていたことだった。
「それに…今から悠長にシェアハウスの物件を探していたら何か月もかかってしまう。それでは架純ちゃんは救えんだろう」
「あ…そっか」
あすなはうーん、と考え込むようにしている。
「もう一度よく考えろ。お前にしかできない方法を…俺は出かけてくる」
日比野はそう言って、立ち上がった。

「待って!」
あすなは、ぎゅっと社長の腕をつかんだ。日比野は思わず気色ばむ。
「…なんだ、また突き飛ばす気か!?」
「違うの…教えてください、その…」
「自分で考えろ、と言ったはずだ。これはお前の将来を見極める…」
「そうじゃないの!」
あすなはそう言いながら、なぜか涙ぐんでいた。
「社長、何でこのプロジェクトを、頭ごなしに否定したんですか?」
「それはもう理解しただろう?個人に対する寄付を募るような…」
「それは表向きの理由でしょ?本当は…もっと何か別の理由があるんじゃないんですか?」

明かされる、日比野の過去。

「…おい、お前が何か話したのか?」
ナミは首を振った。
「いいえ…でも、せっかくだから話をしてあげたらいかがですか?」
「言っただろう、今から俺は出かけるんだ」
そう言うと、ナミは「分かっています」と答えて、
「シェアハウスの物件を探しに、でしょ?」
とつないだ。
「…なぜそれを…」
「分かります。社長はあすなちゃんのアイデアを実現するために、すぐに入居できるような物件がないか探しに行こうとしている。そして、プロジェクトが走り出すまでの数カ月の間の生活費を、ビジネス・キューピッドでアルバイトをさせることで補填してあげようとしている…違いますか?」

驚いたのは、あすなだった。
「…ナミさん、何でそんなことまで分かるんですか?」
しかし、ナミの視線は日比野に向いたままだった。
「社長、しっかり話してください。そうすれば、この3人で一丸となって、このプロジェクトを進められるようになります…」
「…しかし」
「大丈夫です。話してください…物件を探しに行くのはその後でも遅くないはずです」
ナミは頭を下げる。そしてあすなも。

日比野は、大きくため息をついて、椅子に座りなおした。
「俺はな、大学生時代、新聞奨学生だったんだ」
「新聞奨学生?」
「お前は知らないか…住み込みで新聞配達をしながら、大学に通う。そうすると、学費を新聞社が持ってくれるんだよ。仕事はきつかったし、ろくなキャンパスライフじゃなかったが、いつか社会を見返してやろうと思って必死だった」
静かに語られる、日比野の過去。あすなとナミは静かに話の続きを待った。
「でもな…その気持ちは間違いだったとあるとき気づいた。社会は俺を見捨てたんじゃない。むしろ、過酷な労働と引きかえに、自分に学ぶ機会を与えてくれたんだ、と。そのとき、俺は決めたんだ。大人になったら、自分が社会に手を差し伸べる人間になろう、と」
「…すごい」
学生時代に、そんな志を持っていなかったあすなは、純粋に驚いていた。
「知ってのとおり、そのあと俺はH社に就職したんだが…部長になったとき、ある無茶をしたんだ」
「無茶?」
「ああ…H社のCSR活動として、奨学金事業を始めないかと提案した俺は、社長と真っ向から対立してな…結果俺は、H社を追われた」

 

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