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株式会社 日立システムズ

第9回 あすな、自らクラウドファンディング案件を持ち込む

株式会社ビジネス・キューピッドは、今日も忙しく営業を続けている。「いざよい荘」の立て直しプランをナミと協力して立ち上げたあすなは、持ち前の行動力と明るさで、その後もいくつかのプロジェクトを手掛け、ビジネス・キューピッドの戦力として欠かせない存在になりつつあった。
「社長、コーヒーが入りました」
ナミがデスクにコーヒーカップを置くと、日比野はパソコンから視線を離し、両目をぎゅっと右手で揉むようにしながら「ああ、すまない…一息入れるか」と言って、カップに手を伸ばした。

「あすなちゃん、先ほどH社に行くと言っていましたよ」
「ああ、聞いている。月に一度は向こうの会議に出す約束だし…それに」
「…それに?」
「出向期間は6か月だ。もう2か月もすれば、あいつはH社から呼び戻される」
ナミはそのセリフに、日比野の寂しげな気持ちを読み取った。
「社長、以前私に『余計な勘ぐりはよせ』と仰いましたけど…」
「…なんだ」
「やはり5年前のことが気になっているんですか?」
ナミの視線は、茶化そうとしているものではなかった。それでも日比野は首を振る。
「そうじゃない…」
15時の時報を、壁掛け時計が伝える。日比野はそれを聴き終えてから、言葉を継いだ。
「あすなとあの子は無関係だ…俺は、ただ目の前にいるあいつを、一人前にしてやりたいだけだ」
「すみません…」

あすなの卒業試験、それは…。

17時を回ったころ、H社の会議に参加していたあすなが戻ってきた。
「ただいま~!」
ナミはあすなを見て「おかえりなさい」と微笑んだ。
「社長が話をしたいって…少し前から待っているわ」
ナミはそう言って、会議室を指さした。
「え…ほんと?実は私もお願いしたいことがあったんだ~。じゃあ、行ってきます」
あすなはカバンを席に置き、中から手帳とペンを取り出して会議室に入った。

「社長、お待たせしました」
「ああ…座れ」
あすなが席に座るのを見届けて、日比野は早速切り出した。
「お前の出向期間は6か月に設定してあったはずだ。安田とはまだ話をしていないが、おそらくH社は、お前をそろそろ呼び戻すつもりでいるだろう…今日あたり、そんな話は出ていたか?」
「いいえ、ただ関東地区の開発部門では人手が足りないのは確かだそうです」
あすなの答えに、日比野は「うん」と頷いた。

「ウチとしては、お前が出向期間を延長したいと言うのであれば、それをH社に打診しても良いと思っている。『いざよい荘』の案件では頑張ってくれていたし、その後も『Heart Arrows』の案件はいくつか担当してもらっているからな」
「えっ…いいんですか?」
日比野の提案は意外だった。日比野が自分のことを戦力として認めてくれているなんて、考えてもいなかったからだ。
「ああ、しかしあくまでも自分で考えて決めるんだ。お前のキャリアなんだからな」
「はい…」

日比野は少し間をおいて、
「…クラウドファンディングをこれからも手掛けたいか、それとも不動産開発の会社に戻るか…おそらくお前は今、即答できる状況にはないはずだ」
「はい…少し考えさせてください」
「うむ…そこで、だ。それを見極めるために課題を出してやる」
日比野は、そう言ってあすなの表情を伺った。いつもなら「えっ?」と身構えるような表情を見せるはずのあすなが、今日はなぜか顔を輝かせる。
「社長…もしかして!」
「…なんだ?」
「自分でクラウドファンディングの案件を探してこい!って言うつもりでしょ?」

ソーシャル・グッドな新案件。しかし…

「なんで分かった?ナミから聞いたのか?」
「ううん、そうじゃなくて…実はたまたま、高校時代の後輩に話を持ち掛けられていて」
偶然にも、あすなは新しい案件を持ち込もうとしたところだったらしい。
「…後輩?っていうことは、まだ学生か?」
そう聞くと、あすなは頷く。
「ソーシャル・グッドな案件をやってみたいんです…概要をまとめた資料、持ってきていいですか?」
日比野は「ああ、見せてもらおう」と答えつつ、内心驚いていた。あすながいつの間にか、自分から先を読んで行動をとるようになっていることに、である。
いや、そうではない。彼女はもともと、行動力だけは人並み外れていた。その行動力に、いよいよいっぱしのビジネススキルが伴ってきたのかもしれない。

さて、あすなの言う「ソーシャル・グッド」とは、単純に日本語を当てはめると「社会的に良いこと」という意味である。一般的に、クラウドファンディングには寄付型、購入型、投資型などのタイプがあるが、例えば購入型であっても社会に優しいアイテムの購入を促すなどの案件があり、「ソーシャル・グッド」なテーマの案件は比較的多い。

資料をたずさえて、あすなが会議室に戻ってきた。
「その子、実は苦学生なんです」
苦学生、という言葉を聞いたとき、日比野の眉がピクっと動いた。
「…。」
「これが企画の概要です。彼女のお父さんの会社が突然倒産して、学費を工面するのが大変らしくて…だから助けてあげたいんですが…」
資料には「架純ちゃんに学ぶ機会を!チャリティーピンバッジを買いませんか?」と書いてある。日比野はその資料を一目見てテーブルの上に投げ出した。
「ダメだ。別の案を持って来い」

「えっ…ダメですか?」
「少しは行動力とスキルが伴ってきたと思ったら、この程度の案件しか用意できないとはな。…悪いがこのテーマは練り直してもうまくいかない。もう一度言う。別の案を持ってこい」
そう言うと、日比野は立ち上がった。
「待って!」
あすなは食い下がり、日比野を無理やり椅子に座らせた。
「おい、何のつもりだ!」
「私、あきらめません。絶対に架純ちゃんを助けたいんだもん!」

ただならぬ気配を感じ、ナミも会議室に入ってくる。ナミはテーブルに置かれた資料を見て、事情を察したようだ。
「あすなちゃん、明日ゆっくり話しましょう。社長も次の予定があるのよ」
ナミがあすなを諭しているのを尻目に、日比野は不機嫌そうに会議室を出て、扉をバタン!と閉めた。

 

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