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専門家コラム:人を活かす心理学

【第3回】自己効力感 ~小さな成功の積み重ねを大切に~

成果期待と効力感期待

プロ野球・西武ライオンズの秋山翔吾選手が、打撃部門で快進撃を続けています(2015年6月現在)。昨シーズンは二軍落ちも経験しましたが、今シーズンはグリップの位置を下げて球の軌道に合わせられるようにしたことが好調の理由。バットのグリップの位置を下げると、球の軌道を点ではなくラインとしてとらえることができるからだそうです。秋山選手ファンとしては、シーズン終わりまでこのまま突っ走ってほしいものです。

ところで、野球経験者であれば、秋山選手の話を聞いて『そうか、なるほど、そうすればヒットが打てるようになるんだ!』と、頭では(理屈では)理解できるかもしれません。でも、誰もが秋山選手と同じようにできるでしょうか。それは難しいですね。頭では分かっていても、実際にできるかどうかは別問題です。

理解できることと実行できることの違いについて、心理学者のアルバート・バンデューラは、人が行動を起こし成果を得るうえでは2つの期待が存在すると考えました。一つは「そのような行動をとれば、そのような成果が得られるだろう」という期待です。秋山選手のようにグリップの位置を下げれば安打が出るようになるだろう、あるいはもっと身近な例では、毎日1時間ジョギングすれば体重を落とすことができるだろうといった期待です。これを「成果期待」といいます。

ただし、誰もがそのようにできるかどうかは別問題です。毎日1時間のジョギングの効果は期待できても、それをやり通せる自信があるかどうかは別ものです。その行動をやり遂げる自信があるかどうか。これを「効力感期待」といいます。もう少し詳しく言えば、その状況に対処する中で、成果に結びつくと期待できる一連の行動をとれるかどうかの感覚です。バンデューラはこれを「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」と名づけました。

自己効力感が高い場合、すなわち実際にやり遂げる自信がある場合には、人は努力し高い目標にもチャレンジしようとします。一方、自己効力感が低い場合には、行動への自信がもてずにチャレンジ意欲は弱まります。

図 バンデューラの「自己効力感」

自己効力感の4つの源

バンデューラによれば、自己効力感にはそれを生み出す4つの源があります。

第1は「直接の成功体験」です。実際に成功を体験することで「やればできる!」という感覚が強まります。第2は「代理的体験」です。直接に経験していない場合でも、うまくやっている人を観察することで、「自分もああすればうまくできそうだ」という感覚をもつことができます。第3は「言葉による説得」です。ほめられたり、励まされたり、やり方を丁寧に説明してもらうことで、「やればできる」という感覚が生まれます。そして第4は「情緒的覚醒」です。行動中に自分の内部に生じた生理的状態を意識することで、感覚に違いが生まれます。例えば、心拍数の増加を意識すれば不安やアガリの感情が生まれ、行動への自信が弱まりますが、心拍数に大きな変化がなければ平常心を保っている自分を意識することができ、行動への自信につながります。

この4つの源は、説明した番号の若いほど自己効力感に及ぼす影響は強いと考えられます。したがって、自己効力感を高める一番効果的な方法は、小さなことでもよいので「できた!」「やれた!」という成功体験を重ねることです。自己効力感の強まりは、外からの報酬を期待せずとも「自分でやってみよう」「自らチャレンジしてみよう」という内発的モチベーションにもつながることが知られています。

キャリア自己効力感

自己効力感は、特定の課題を遂行する自信ですから、その感覚は取り組む課題ごとに異なります。一つの具体例として、仕事上でのキャリア形成に関する自己効力感についての研究を紹介しましょう。

職業に就くための教育訓練やその仕事をこなすのに必要な個人の自信は、キャリア自己効力感とよばれます。日本で行われたある研究では、予備調査によって典型的に男性的、典型的に女性的というイメージの職業を10ずつ用意し、男女大学生を対象にそれぞれの職業についてのキャリア自己効力感を測定しました。結果は、女子学生では女性的イメージの強い職業についてのキャリア自己効力感が高いのに比べて、男性的イメージの強い職業ではキャリア自己効力感が著しく低い結果になりました。これに対して男子大学生では、どちらの職業でも高いキャリア自己効力感を示しました。同じ研究者らが男女高校生を対象に行った別の研究では、理系科目の実際の成績には差が見られないにもかかわらず、理系進路への自己効力感は女子が男子よりも低いという結果になりました。

これらの結果は、社会がそれぞれの性に何を期待しているかということから解釈されました。男性の場合には、「腕白でもいい、たくましく育て」というように、たくましさや積極性、競争心をもつことが期待されます。これらは、将来社会に出たときにキャリアを伸ばして行くうえで役立つ要素といえます。したがって、男性は、小さい頃から社会がもつ性役割期待に応えていくことで、キャリア自己効力感も高まっていくと考えられます。

一方、女性に求められる典型的な性役割期待は、「お転婆せず、しとやかに」といった、従順さや受け身のやさしさです。これらは男性に対する性役割期待に比べれば、キャリア自己効力感の発達には直接結びつきにくい要素です。つまり、社会から期待される性役割がキャリア形成に結びつきやすいかどうかの差が、職業に対するキャリア自己効力感の違いにつながるというわけです。

実際には仕事で求められる能力、仕事を遂行する能力に男女差はありません。それにも関わらず、社会が両性に対して持つ性役割観、別の言い方をすれば性役割分業観の違いによって、キャリア自己効力感に違いが生まれるというのが、これらの研究のポイントといえます。

世の中の固定観念の影響

留意すべき点もあります。この研究が行われたのは1990年代の初め、いまから四半世紀近く前でした。その頃に比べると、いまでは社会の中で見られる性役割分業観も変化しています。例えば、内閣府が実施する働き方に関する調査の中では、「男は仕事、女は家庭」という考え方についての賛否を定点観測的に聞いています。上で紹介した研究が行われた頃の調査結果(1992年)では、男女合計値で賛成が60%、反対が34%でした。これが2004年度調査では、賛成41%、反対55%と、初めて反対が賛成を上回りましたが、2014年度調査では賛成45%、反対49%と、その差が前回調査に比べて縮まっています(もちろん、男性と女性、年齢層によっても回答の割合は異なります)。

ですから、世の中の性役割分業観がキャリア自己効力感に及ぼす影響は、時代によって異なる可能性があります。しかし、こうした世の中の固定的な観念が一種の社会的な圧力となって男女の働き方に影響を与えていることは、多くの研究が見いだしています。ワーク・ライフ・バランスや、女性のキャリア形成を考えるうえでも、重要な手がかりになる問題といえるでしょう。

※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

 
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